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天女(つばくらめ)29 side楓
「え、ちょっ…え!?これでいいの!?」
「ダメだって。こうやって、左腕で首をちゃんと支えて…そうそう。右手は、股の間からこうして差し込んで…背中を支えてやると安定するから」
世絆を抱っこしてみたいと申し出ると、志摩は快く許してくれたんだけど。
いざ蓮くんの腕から受け取ってみたら、思ってたよりも重くてふにゃふにゃで、心許なくて。
どうしたらいいのかわからずに、おろおろしてたら、蓮くんがやり方を手取り足取り教えてくれた。
「どう?これで、大丈夫だろ?」
「…うん」
ようやく俺の腕の中に収まった世絆は、円らな瞳でじっと俺の顔を見つめていて。
その愛らしさに、心がふんわりとあったかくなる。
「可愛いねぇ」
「うん」
「でも、赤ちゃん抱っこするって難しいんだね…ふにゃふにゃだし、すぐに怪我させちゃいそう。俺、ちゃんと出来るのかなぁ…?」
「大丈夫。すぐに慣れるよ。子ども苦手だった俺だって出来たし。それに、この子たちが産まれたらきっと、出来るかな、なんて悠長なこと言ってられなくなる」
「そっかぁ」
「………えっ!?」
蓮くんが俺のお腹に手を当てると、それまでニコニコしながら俺たちを見ていた志摩が、驚きの声を上げた。
「こ、この子たちって…もしかして、柊さんも赤ちゃんが!?」
「あ…うん。実は…」
「ホントですか!?」
驚きに目を真ん丸にされて、なんだか気恥ずかしくてほんの少しだけ首を縦に振ると、志摩の顔がぱあっと綻んで。
また、涙を滲ませる。
「よかった!よかった…ホントに、よかった…」
「志摩…」
一度止まったはずの涙を、またぽろぽろと溢し。
本当に嬉しそうに微笑む志摩に、胸がいっぱいになって。
「だから、いろいろ教えてね。ママとしては、志摩の方が先輩なんだから」
俺も釣られて泣きそうになったから、無理やり明るい声を出した。
「え、えーっ!?ぼ、僕が、柊さんの先輩っ…!?」
「そうだよ。赤ちゃんのお世話の仕方とか、俺まだ全然わかんないから、頼りにしてます」
「えええ…はい…ええっと…頑張ります…」
「それに、この子たちが無事に生まれたら、世絆とは従弟になるから、一緒に遊べるといいな」
自分でも驚くほど、するりと自然にそんな言葉が出てきて。
そんな自分に、少しだけ嬉しくなる。
「…そっか…僕、柊さんの弟に、なったんですよね…?」
「うん、そうだよ」
「…なんか…まだ、信じられない…僕、また柊さんの側にいても、いいんですよね…?」
「…うん、もちろん。また一緒におしゃべりしたり、スイーツ食べに行ったりしたいな。…あの頃みたいに」
「っ…はいっ!僕もですっ!」
志摩が泣きながら、でも満面の笑顔で頷くと。
腕の中で眠っていた世絆が、小さく身動ぎをして。
ふぎゃーっと大きな声で泣き出した。
「えっ、えぇ!?どうしたの!?」
「きっと、志摩くんが泣いてるからだな。世絆、志摩くんが泣いてると一緒に泣くんだよ、いつも」
慌てた俺に、蓮くんが落ち着いた声でそう言って。
俺の腕から世絆を取り上げると、志摩に引き渡す。
「せつー、ごめんね。ママ、泣いてないから大丈夫だよ」
濡れた頬のまま、志摩が世絆に微笑みかけてあやすと、すぐに世絆は泣き止んで、また微睡み始めた。
それを愛おしそうに見ている志摩は、まるで絵画から飛び出してきた聖母のように神々しくて。
俺も…
あんな風にこの子たちを抱けるかな…
その姿に、未来の自分を重ねていると。
「…俺たちも、早くこの子たちに会いたいな…」
蓮くんが、背中からそっと抱き締めてくれて。
「…うん」
俺は頷いて、蓮くんの大きな胸に身体を預けながら、そっとお腹に手を当てた。
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