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鳳凰(ほうおう)3 side楓

中庭へ出ると、花壇に咲き誇った花々のいい香りに包まれた。 「大丈夫ですか?寒くないですか?」 「ああ。大丈夫だ」 車椅子のお父さんのずれた膝掛けを直すと、優しい顔で頷いてくれる。 「楓、あそこのベンチに行こうか」 「うん」 蓮くんが花壇の向こう側にあるベンチに向かって、ゆっくりと車椅子を押して。 俺はその隣を、穏やかな春の風に吹かれながら、同じ速度で歩いた。 「…なんだか、まだ夢を見てるみたいだな…おまえたちが並んでいるところを、この目で見られる日がくるとは…」 並んでベンチに座った俺たちを見て、お父さんが嬉しそうに目を細める。 その瞳から、突然大粒の涙が溢れた。 「お父さん…?」 「…申し訳ない…」 そうして、俺に向かって深く頭を下げる。 「え、ど、どうしたんですか?」 「諒と約束したのに…おまえには諒のような苦労はさせないと、そう誓ったのに…結局私はおまえを苦しめてばかりだった…」 神への懺悔のような言葉には、深い後悔が滲んでいて。 「それなのに、父とは名ばかりの、父親らしいことはなにひとつしてやれてないこんな私を、お父さんと呼んでくれて…私は…私は…」 俺は立ち上がり、最後は言葉にならずに咽び泣くお父さんの前に跪くと、小さくなってしまった手をそっと握った。 「もう…いいんです。俺は今、すごく幸せなんです。生きててよかったって…俺が俺であって、本当によかったって、心から思うんです。だからもう、お父さんも俺のことで苦しまないでください」 振り返れば 苦しいことばかりだった やり直すことが出来たらどんなにいいだろうと思ったことなんて数えきれないほどある 「…自分がΩであることに、ずっと絶望しか感じていませんでした。あのままβとして生きられたらどんなに幸せだっただろうと…Ωである自分は必要のない存在なんだと…ずっと、そう思いながら生きていました。でも…ようやくわかったんです。Ωだから苦しんだのと同じくらい…ううん、それ以上に、Ωだからこそ感じられる幸せがあることに」 でもきっと 苦しみ踠きながら生きてきたこの人生は 決して無駄なんかじゃない 「俺の周りには、とっても優しくて温かい人がたくさんいます。それはたぶん、Ωの俺じゃないと出会えなかった人たちで。そしてなにより…Ωだったから、世界で一番愛する人に、出会えた…」 言いながら蓮くんを見つめると、蓮くんはふんわりと優しく微笑んで。 俺の肩を抱き締めてくれる。 もしも俺が本当にβだったなら 俺と蓮くんは普通の兄弟だっただろう そんなのは嫌だ 俺は蓮くんの運命のΩでありたい もしももう一度生まれる前からやり直すことが出来るとしても 俺はきっと同じ人生を選ぶだろう 誰よりも愛するこの人の隣で生きる道を 「俺は…Ωで良かった。蓮くんの運命の番で、本当に良かった…今、心からそう思えるのは、お父さんがずっと俺を見守ってくれてたから。だから、もういいんです。俺は、幸せだから。だからお父さんも、もう自分を許してあげてください」 そう言って微笑むと。 お父さんは何度も頷きながら、また新たな涙を溢れさせた。

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