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鳳凰(ほうおう)10 side楓

「可愛いねぇ…」 一心不乱におっぱいに吸い付く世絆を見てると、自然と頬が緩む。 「どう?育児、大変?」 「退院してすぐは、全然夜中寝てくれなくて…僕も体力落ちてたし、正直スッゴい大変でした。2人で泣きながら朝を迎えて、小夜さんびっくりさせちゃったりして」 「あの時は、本当にびっくりしましたよ。夜中に起こしてくださればよかったのに」 「すみません」 志摩が謝ると、ベッドに並んで腰掛けてる俺たちを見守るように向かいのソファに座ってた小夜さんが、微笑んだ。 「でも最近は夜ぐっすり眠ってくれる日もあるし、昼もご機嫌に遊んでくれる時間も多くなってきましたよ。まぁ、大変は大変ですけど」 「そっかぁ…俺、ちゃんと育児出来るのかなぁ…?」 「柊さんのお腹の赤ちゃん、双子なんですよね?一人でもこんなだから、大変かも…」 「やっぱり?」 「はい。柊さん一人じゃ、絶対大変ですよ」 「一応、蓮くんが3ヶ月は育児休暇取ってくれるって言ってるけど…」 「おお!さすが蓮さん!」 「でも、蓮くんだって初めての育児なんだしさ。二人ともわかんないことだらけだから、ちょっと不安」 「困ったら、いつでも連絡してください。小夜さんに手伝いに行ってもらいますから」 「え?いいの?志摩だって、龍が今仕事忙しいから、一人じゃ大変でしょ?」 「大丈夫です。もう慣れましたし。ね、小夜さん」 「ええ。なにかあったら、すぐに言ってください。蓮さんも楓さんも頑張り屋さんだから、なんでもご自分達で解決しようとなさるから…心配です」 「あ、そっか。じゃあちょくちょく僕たちが様子見に行けばいいんだ!そうしましょう!」 「え…いいんですか?」 いいこと閃いたって満面の笑みを浮かべた志摩を、少し困惑したように小夜さんが見るから。 俺は笑顔で頷く。 「是非。あの時教えてもらえなかったこと…いろいろ教えてくれると、助かります」 そう言うと、みるみるうちに小夜さんの瞳が潤んで。 また大粒の涙が溢れた。 「すみませんっ…年を取って、涙脆くなってしまって…」 泣き笑いで言い訳を口にする彼女の隣に移動すると、そっとその背中に手を添える。 「小夜さん…俺ね、この子たちが双子だってわかった時、あのこが戻ってきてくれたんだと思ったんです。もう一人を連れて」 「楓さん…」 「だから、一緒に育ててやってください。あの時の約束通りに」 「…っ…はいっ…ありがとうございますっ…」 そんな俺たちを、世絆を縦抱きにして背中を擦りながら、志摩が微笑んで見ていて。 「でも…良かったです」 不意に、そう言った。 「昔、一緒にいた時の柊さん、未来のことなんて考えてくれなかったじゃないですか。僕が、いつかあんなことしよう、こんなことしようって言っても、いつも曖昧にそうだねって言うばっかりで」 「え…そうだっけ?」 その言葉に、過去の記憶を引っ張り出す。 ああ、そっか… あの時はいつかお父さんのところへ行くことしか 考えてなかったから… 「でも今は、ちゃんと赤ちゃんが生まれた後のことも考えてて…当たり前なんだけど、その当たり前のことが僕、すごく嬉しいです」 「志摩…」 志摩の目にも、涙が浮かんで。 思わず貰い泣きしそうになった時。 世絆の盛大なゲップの音が、部屋中に響き渡った。 「………ぶっ」 「す、すみませーん…」 「なんで謝るの。おっぱい飲んだら、ゲップって出さなきゃいけないんでしょ?スッゴい飲んでたしね」 「そ、そうなんですけどぉ…タイミングが…」 「そんなの、世絆に言っても無理でしょ」 湿った空気が一瞬で優しい空気に変わった部屋で。 俺たち3人は涙を拭って笑いあった。

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