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鳳凰(ほうおう)11 side楓

久しぶりのお客様の前での演奏。 告知なんてしてないはずなのに、どこから聞き付けたのか、たくさんの人が聞きに来てくださって。 みんな、俺の仕事復帰を喜んでくれた。 その温かい視線に包まれると、すごく幸せで。 俺の居る場所はここなんだと みんながそう言ってくれているようで この胸いっぱいを満たす喜びと感謝と。 そしてなによりも。 人垣の一番外から見守ってくれている、蓮くんへの感謝を目一杯詰め込んで。 俺はいつもよりも、もっと心を込めるように、鍵盤を弾いた。 ありがとう… 蓮くんが俺の生きる場所を 生きる意味を そしてこれから先の未来を作ってくれた 俺もそんな風に君になにかを作ってあげられるかな… いつも貰ってばっかりの俺は その事が不安だったこともあったけど 今は違う 俺が蓮くんがいないと生きていけないように きっと君も俺がなによりも必要なんだってわかるから 俺はこれから先もずっと 君の為だけに生きていく 二人で生きていく だからね これは俺の勝手な願いだけど 出来ることなら 君が俺のことを思って作ってくれたこのホテルを ずっと二人で守っていきたいなぁって思うんだ…… 「疲れたか?」 演奏時間が終わっても、たくさんのお客様からお声掛けいただいたり、アンコールの要望があったりして。 控え室に戻ってきたのは予定より30分も遅い時間だった。 ベッドに並んで座ると、蓮くんは少し心配そうに俺の頬を指先で撫でる。 「ううん、大丈夫。久しぶりにお客様の前で弾いて、すごく楽しかったから」 「うん。それは見てればわかったよ。あんまり楓が楽しそうで幸せそうだから、俺まで幸せな気分になった」 「ホント?だったら、嬉しいな」 顔を寄せて、唇に触れるだけのキスを仕掛けると。 離れようとした顔を押さえられ、お返しとばかりに濃厚なキスをされた。 舌を激しく絡められ、咥内を隈無く舐めしゃぶられて。 吐息をも奪い取られるようなキスに、すぐ身体に力なんか入らなくなっちゃって。 唇が離れた瞬間、くたりと蓮くんに身体を預ける。 「…っ…もうっ…いきなり激しすぎ…」 「ふ…蕩けちゃった?可愛いな」 どこか楽しそうな蓮くんは、俺をしっかりと抱き締めると髪に優しいキスをした。 「…なぁ、楓」 そうして、髪を指先で梳きながら、優しい声で語りかける。 「俺さ…ここにいるから」 「え?」 なんのことかわからずに、顔を上げると。 「俺、あの家には戻らない。楓の為に作ったこのホテルで、楓が幸せそうにピアノを弾いてる姿をずっと見ていたいし、それを守るのは俺しかいないからさ。だから、ずっとここにいるから。このホテルを、ずっと守っていくから」 優しくも、意志の強い眼差しが俺を見つめていて。 心が、震えた。 「…どう、して…?」 「おまえ、俺が九条に戻るんじゃないかって不安になってただろ?だから…」 「ううん、そうじゃなくて…さっきね、俺も同じこと考えてたの。蓮くんとずっと、このホテルで一緒に働けたらいいな、って…」 そう言うと、蓮くんは一瞬だけ目を真ん丸にして。 すぐに嬉しそうに破顔し、俺にまたキスをする。 「以心伝心、だな」 「ん…そうだね」 俺は頷いて、もう一度お返しのキスをした。

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