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鳳凰(ほうおう)14 side楓

お化粧はいいって言ったのに、ドレスを着て、してない方が不自然だからと説得されて。 薄目のナチュラルメイクに、ピンクのルージュを引かれ。 頭に長いベールのついた髪飾りを付けられ。 鏡の前に立つと、まぁそれなりにおかしくはない花嫁姿の俺が、写っていた。 「ヒメさん、綺麗!」 「素敵ですっ!」 スタッフのみんなは、俺を乗せる為に口々に大袈裟にお世辞を言う。 それがちょっと恥ずかしかったけど、人間誉められるとその気になるもんで。 鏡に写る自分が、少し可愛く見えた。 蓮くん、喜んでくれるかなぁ…? 引かれたらどうしよ… 「かえ…じゃなかった、ヒメの準備、出来た?」 蓮くんの反応を想像してドキドキしてると、突然ドアが開いて春くんが入ってきた。 「おまえね…ノックしろよ。ヒメが裸だったら、どうすんだよ」 「おーっ!いいじゃん!似合ってる!写真撮らせて!」 「春くん、なんで…?」 春くんに冷たい目を向けた和哉と、そんな視線なんて感じてないみたいに俺に駆け寄ってスマホを取り出した春くんと。 二人の顔を交互に見比べながら訊ねると。 春くんはニコッと笑って俺の手を握る。 「だってさ。二人の結婚式だよ?俺が参列しないでどうすんの」 よく知る、優しい微笑みに。 俺を何度も救ってくれた微笑みに。 胸が熱くなった。 「他にもね、来てくれてるよ。待ってて」 そう言って。 一度出ていった春くんがすぐに戻ってくると、その後ろにはもう帰ったと思ってた志摩と小夜さんと。 那智さんと誉さんもいた。 「おめでとうございます、柊さんっ!すごく綺麗っ!」 いつの間に着替えたのか、志摩はスーツ姿で。 抱っこ紐で眠っている世絆も、フリルのついた白いロンパスを着ている。 「志摩も、知ってたの?」 「はい。実は3日前に藤沢さまからご連絡いただいてて…さっき黙ってるの、なんかムズムズしちゃいました」 「そうだったんだ。なんか、ごめんね。志摩はまだ、式挙げてないのに」 「そんなこと、気にしないでください!僕は、世絆がもう少し大きくなったらって約束してもらってるんで」 「本当に?良かった」 「はい!だから、今日は楽しんでくださいね!」 「ありがとう。小夜さんも、ありがとうございます」 「大切なお二人の結婚式に参列させていただいて、お礼を言うのは私の方です。おめでとうございます。蓮さんと、どうぞ末永くお幸せに」 満面の笑顔の志摩と、うるうると涙ぐんでる小夜さんに頭を下げ、那智さんたちの方を向くと。 那智さんは、俺の頭の天辺から足先までを眺め、ニヤリと笑った。 「馬子にも衣装、だな」 「えー!?その言い方、ヒドイ!」 「うそうそ。似合ってるよ、柊。蓮のやつ、絶対惚れ直すと思うぜ?」 まるで揶揄うような軽さで、そう言うから。 「じゃあ、那智さんと誉さんが式挙げる時には、那智さんもドレス着てよね」 言い返すと、一瞬で耳まで赤くなる。 「ばっ…着るわけねぇだろっ!俺が似合うと思うか!?」 「案外似合うかも」 「んなわけねぇだろっ!なぁ、誉!」 「そう?僕は、ちょっと見てみたいけどなぁ~」 「ば、バカなこと言ってんじゃねぇっ!俺はっ…」 「お客様。もしまだ式場がお決まりでなければ、是非当ホテルをご利用くださいませ。サービスさせていただきますので」 那智さんが誉さんに言い返そうとしたのを、白い首輪のスタッフが絶妙なタイミングで遮って。 「そうですね、その時はうちの可愛い奥さんに似合うドレス、よろしくお願いします」 あんぐりと口を開けた那智さんを抱き寄せながら、誉さんがにっこりと笑った。

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