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鳳凰(ほうおう)15 side楓

「お喋りはそのくらいにして、皆さんは会場へ移動してください。これ以上待たせると、新郎が待ちくたびれて突撃してきそうなので」 誉さんに掴みかかってる那智さんを宥めてると、和哉が呆れた声で割り込んでくる。 「君たち、ご案内して」 そうして、有無を言わせぬ威圧感でみんなを部屋の外へ追い出し。 二人っきりになると、大きな溜め息をついた。 「ごめんね」 その背中に声をかけると、弾かれたように振り向いて、不思議そうな顔をする。 「別に、あなたが謝ることじゃありませんよ」 「そうじゃなくて…」 先に続く言葉を躊躇うと、和哉はじっと俺の顔を見て。 一歩俺に近付くと、両手で俺のほっぺたをむぎゅーっと引っ張った。 「い、いひゃいっ…」 「バーカ」 そう言った和哉は、どこか清々しい表情で。 「いつまで言ってんですか。そんなの、もうとっくに忘れてましたよ」 ジンジンと痛む頬に指先でちょんと触れて、手を離す。 「それに俺、今の自分には結構満足してるんです。あなた達みたいにドラマチックでもない、ただの平凡な日常ですけど…そういう中にある小さな喜びだったり、楽しみだったり…それを二人で見つけていくのも面白いってこと、あの馬鹿が教えてくれたんで」 馬鹿、なんて口にしながらも、和哉はどこか幸せそう。 「…うん」 だから、俺もそれ以上は言葉にしないで、ただ頷いた。 「だから、謝罪の言葉は要りませんけど、感謝の言葉なら受け付けますよ?大変だったんですから。蓮さんの目を盗んで、この式の計画立てるの」 「あ、ごめん!…じゃなかった。ありがとう、和哉」 「どういたしまして。ま、仕方ないですね。俺はどうやら、あなたの世話を焼くのが人生の役割のようなので」 「え、そうだっけ!?」 そう言われて。 思い返してみると、高校の生徒会の時も、このホテルで働き始めてからも、和哉にはお世話されてばかりの記憶が鮮やかに甦る。 「…ごめん」 「だから、謝罪はいいですって。本当に嫌だったら、やってませんし」 「ホント?」 「ええ」 「ホントにホント?」 「しつこい。あなた、俺の性格知ってるでしょう?」 「…うん」 「だったら、黙ってお世話されてなさい」 「ふふっ…はい。ありがとうございます」 どっちが年上かわからないような会話に、つい笑いが溢れると。 和哉はこれ見よがしな大きな溜め息を吐いて、部屋の隅へと足を向け、置いてあった段ボールの中から淡いピンクの薔薇で作られたブーケを取り出した。 「さぁ、行きましょう。あなたの運命の人が、待ってますよ」 「…うん」 それを受け取って。 俺は一歩を踏み出す。 たくさんの人の、愛情を受け取りながら。

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