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鳳凰(ほうおう)18 side楓

「では、そろそろ始めようか。今日は、僕が立会人だ」 声を掛けたのは、伊織さんで。 ゆったりとした足取りで、俺たちの前に立った。 「え…立会人…?」 なんのことかわからず、きょとんとしていると。 どうやら段取りを事前に聞いていたらしい蓮くんが、俺の手を握ったまま伊織さんへと向き直る。 「よろしくお願いします」 よくわからないまま、蓮くんに倣ってぺこりと頭を下げる。 「それでは」 伊織さんは、一度仕切り直すように、咳払いをして。 「蓮」 蓮くんを、ほんの少しだけ鋭い眼差しで見た。 「君はヒメを生涯ただ一人のパートナーとし、病めるときも健やかなときも、どんな困難が訪れても、決してその手を離さず、彼を愛し、世界一幸せにすることを、ここにいるみんなに誓いますか?」 「はい。誓います」 蓮くんが、強い意思を宿した瞳で、間髪入れずに頷く。 そうして、俺へと視線を向けると、ふわっと柔らかく微笑んでくれて。 胸が、きゅんっと音を立てた。 「ヒメ」 「あ、は、はいっ」 その誰よりもかっこ良くて優しい微笑みに見とれてると、伊織さんが俺の名前を呼んで。 慌てて、顔をそっちに向ける。 瞬間、伊織さんが口の端に困ったような笑いを浮かべたのがわかって。 一気に羞恥で身体が熱くなった。 「君は蓮を生涯ただ一人のパートナーとし、病めるときも健やかなときも、どんな困難が訪れても、決してその手を離さず、彼を愛し、世界一幸せにすることを、ここにいるみんなに誓いますか?」 一言一言、ゆっくりと丁寧に紡がれる言葉を聴きながら。 頭の中に、走馬燈のようにいろんな景色が流れる。 始めて会った、九条のお屋敷の中庭。 泣いていた俺の手を握った君の手の温もり。 初めてのヒートの嵐の中、雷に打たれたような衝撃で君が俺の運命の人だとわかった、あの瞬間。 初めて二人だけで行った、江ノ島の美しい景色。 ひとりぼっちで君のことを思いながら泣いた日の、青い空。 デパートのピアノを弾きながら感じた、君の熱い眼差し。 最後だと心に決めて君に抱いてもらった、幸せと哀しみで溢れていた、あの夜。 海に身を投げようとした俺を抱き留めた腕の強さと、君の叫び声。 目が覚めた時に見た、君の涙。 「…ヒメ?誓いますか?」 側にいるときも、離れているときも。 楽しいときも、苦しいときも。 俺の中にはずっと君がいた。 君だけが。 そして、これから先もずっと… 「…はい。誓います」 心を込めて、言葉にすると。 熱い思いが涙になって溢れた。 蓮くんの長い指が、頬を流れ落ちた涙を拭って。 そのまま顎を掴まれ、向き合う。 「それでは、誓いのキスを」 厳かな伊織さんの声に、頬に当てた手を滑らせ、肩を引き寄せられて。 「もう二度と、離さない。二人で、幸せになろう」 「うん。愛してる、蓮くん」 「俺も、愛してるよ」 蓮くんの幸せそうな微笑みを間近で見つめながら、俺はそっと目を閉じた。

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