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鳳凰(ほうおう)19 side楓
「ええっと…斎藤先生、順番が違うんですが…」
唇を離した瞬間、和哉の声が遠慮がちに割り込んできた。
「へ…?」
「いや、わかってはいたんだけどね。さっきのはもう、誓いのキスのタイミングだったから、まぁいいかと思って。ムードを壊すのは、粋じゃないだろう?」
なんのことかと伊織さんを見ると、苦笑いしながら肩を竦める。
キスのタイミング、なんて言葉に、そんな風に見えてたのかと思うと恥ずかしさが込み上げて。
顔が一気に火照った。
「それじゃあ、順番が逆になったけど、指輪の交換を」
ごほん、とまた咳払いをして、伊織さんが神妙な顔を作る。
「え?指輪?そんなもの、用意してないけど…」
蓮くんが少し焦った顔で伊織さんを見返すと、伊織さんは微笑みを湛えながら、小さな箱を取り出した。
「え…?」
「君たちの大切な友人からの、プレゼントだよ」
そう言って、参列席を指し示すと。
春くんが笑顔でピースサインをして。
和哉も微笑んで頷いて。
その温かな眼差しに、胸が熱くなる。
指輪を用意してるってことは、二人がこの式をずいぶん前から準備してくれてたってことで。
二人の優しい気持ちに、涙がじわりと込み上げた。
「…ありがとう」
それを受け取った蓮くんの瞳も、一瞬潤んだように見えて。
「楓」
ふっと小さく息を吐き出すと、箱を開け、二つ並んだゴールドの指輪の片方を取り出す。
俺の左手を恭しく取り、薬指へゆっくりと通すと、前に蓮くんからもらった指輪の上にぴったりと填まった。
「ちっ…春海のやつ…」
俺のサイズがわかってたようにぴったりのそれを指先でなぞりながら、蓮くんがみんなには聞こえないように小さく舌打ちをする。
「くっそ…腹立つ」
「もう…そんなことで怒らないでよ」
なんだか可愛く見える蓮くんの姿に、つい緩んでしまいそうになる頬を引き締めつつ、俺も蓮くんの左手を取り。
薬指に、指輪を填めた。
プラチナとゴールドの2つの指輪は、まるで最初からそうだったように違和感なく俺たちの指に収まって。
指輪に込められた蓮くんやみんなの気持ちが、優しく俺を包み込んでくれる。
幸せを噛み締めながら、何度も何度も右手で指輪をなぞって。
顔を上げると、蓮くんも幸せそうに微笑んでいた。
「みんな…ありがとう」
俺の肩を抱き寄せながら、蓮くんが俺たちを見守ってくれているみんなに向かって、頭を下げる。
「いつかは、結婚式を…とは考えていたけど、まさかこんなに早く、こんなに綺麗なヒメの姿を見られるなんて夢みたいで…全てみんなのお陰だ。本当にありがとう。こんなに優しくて思いやりのある素晴らしい仲間と共にいられることは、俺たちの一番の財産だと思う。これから、全身全霊でヒメを幸せにするから、ずっと見守っていて欲しい。よろしくお願いします」
力強く宣言した言葉に、胸がまた熱くなって。
「じゃあ、ヒメからも一言、どうぞ?」
涙を堪えてたら、蓮くんが突然そう促した。
頷いて、お腹にぐっと力を入れる。
「今日は、俺たちのためにありがとうございました」
頭を下げた俺に、みんな笑顔を向けてくれる。
「俺、今本当に幸せです。俺は今まで、蓮くんに支えられてばかりだったけど、これからは俺が蓮くんを支えていけるように、頑張ります。それから、この先出産や育児で皆さんにご迷惑をおかけすると思いますが、これから先もずっと、蓮くんや皆さんと一緒にこのホテルで働きたいと思ってるので、これからもよろしくお願いします」
一気に言って、もう一度頭を下げると、みんなから口々におめでとうの言葉が投げかけられて。
身体から溢れでそうなほどの幸せを噛み締めていると、蓮くんの指が俺の顎をそっと掴んだ。
近付いてくる宝石のような瞳をギリギリまで見つめ、目を閉じて。
大きな歓声の中で、俺たちはもう一度誓いのキスをした。
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