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鳳凰(ほうおう)24 side楓
ベッドの上では、さっきまでとは全然違って。
蓮くんは優しく俺を抱いた。
「楓…俺だけの、楓…」
繋がったまま、まるで宝物に触れるみたいに何度も優しいキスをくれた。
「愛してるよ…これから先も、ずっと…」
「俺も…ずっとずっと愛してる…」
さっきの結婚式の延長のように、愛を誓う言葉を交わして。
ゆっくりゆっくり、一緒に快楽の果てを目指すような交わりは、俺と蓮くんの境界線がなくなって、身も心もひとつになれたような錯覚を起こした。
さっきまでの獣みたいな激しいセックスも、もちろんすごく気持ちよかったけど。
こうして、蓮くんの大きな腕に抱き締められて、甘くて優しい快楽に浸されるセックスは、身体だけじゃなくて心までひどく満たされて。
「…蓮くん…一緒に…」
「ああ…」
同時に辿り着き、精を解放した瞬間。
なぜか、目から一粒、涙が溢れ落ちた。
一緒にお風呂に入って、身体を蓮くんに洗ってもらって。
俺が窓を掃除してる間に、蓮くんが綺麗にベッドメイクし直してくれて。
さらさらのシーツの敷かれたベッドに二人で横になっり、甘い余韻に浸りながら、蓮くんの胸に頬を埋めた。
すぐさま、蓮くんの温かい手が髪を撫でてくれる。
「でも…今日はホントにびっくりしちゃった。蓮くんも、知らなかったの?」
「ああ、全く。いつの間に準備してたんだか…」
呆れたみたいに聞こえる声音で、そう言ったけど。
俺の左手を取り、まるで最初から二連のリングだったようにぴったりと寄り添う2つの指輪にキスをした蓮くんの顔には、柔らかい微笑みが浮かんでいた。
「…嬉しかったね」
「ああ」
「こんなに優しい人たちに囲まれて…俺、幸せ過ぎて、ちょっと怖いくらい」
「怖い?」
「少し前まで…こんな幸せな日がくるなんて、夢にも思わなかったから…Ωの俺が、こんなに幸せでいいのかなって…」
不意に、ひとりぼっちだった頃の寂しさや苦しさを思い出して。
震えた言葉を掬いとるように、蓮くんが唇にキスをする。
「これからはずっと、幸せだ」
「っ…蓮くんっ…」
「もう、絶対に一人にしない。おまえの笑顔は、俺が命を懸けて守るから」
「うん。俺も…これからは蓮くんのこと、守れるように頑張るよ」
微笑みあって。
どちらからともなく、もう一度唇を重ねたとき。
トン、と小さな衝撃がお腹に走った。
「あっ…」
「え?」
「動いた!」
「ええっ!?」
蓮くんが慌ててお腹に手を当てる。
すると、今度はトン、トン、と続けて二回の衝撃が。
「おおっ!動いた!」
蓮くんが、珍しく興奮気味に大きな声を上げた。
その後はもうなんの動きもなかったけど、蓮くんはずっとお腹に手を当てて、ひどく愛おしそうに撫でている。
「二人とも男の子かな?」
「どうだろ。蓮くんは、女の子がいい?」
「どっちでもいいよ。男でも女でも。αでもΩでも」
さらりと自然に溢れた言葉に、胸が少しだけ苦しくなった。
「無事に生まれてきてくれれば、それだけでいい。その後は、俺たちが全力で守ろう」
「…うん」
力強い眼差しに、その苦しさはすぐに消え去って。
俺は強く、蓮くんにしがみつく。
もしもこの子たちがΩだったら…
なんて
本当は少し不安だった
でも大丈夫
生まれてきた子がたとえΩでも
蓮くんと俺で
全身全霊でこの子たちを守っていけばいい
「これは、まだ極秘なんだけど…さっき控え室でさ、伊織から近々、若手議員を中心に雇用機会均等法の改正案を作成するって話を聞いたんだ」
「こようきかいきんとうほう…?」
「うん。今よりももっとΩの社会進出を促進して、二次性別での雇用格差を無くす取り組みだ。そのグループのブレーンになってくれないかって頼まれた」
「蓮くんが?」
「ああ。このホテルをモデルケースにしたいらしい。α、β、Ωを画一的な働き方ではなく、その性の特性に合った働き方を促していく…簡単なことじゃないけどね。このホテルくらいの規模なら出来ても、社会全体に広げていくのは途方もない時間と労力を要する。それでも、やらなきゃいけない。社会を変えなきゃいけないって」
「社会を…変える…」
そんなこと
簡単に出来ることじゃない
でも
蓮くんと伊織さんが手を組めば
いつかきっと出来る日が来るような気がする
そんな淡い期待が、蓮くんの強い眼差しを見つめながら浮かんできた。
「…この子たちが大きくなる頃には、今よりももっとΩの人たちが生きやすくなってるはずだ。俺たちが、それをやるんだ。だから、怖がらなくてもいい。男でも女でも、αでもΩでも…俺たちは、生まれてくるこの子たちを思いきり祝福してやろう」
「うん…うんっ…」
その力強い言葉は、俺の心も丸ごと優しく包み込んでくれる。
未来の見えない不安を
憂いていたって仕方ない
だったら今の自分に出来ることをやるしかない
俺に出来ることは
ちゃんとこの子たちを産むこと
生まれてきたこの子たちに
たくさんの愛情を注ぐこと
「…ありがとう、蓮くん」
蓮くんがいつも俺の行き先を照らしてくれる
蓮くんがいるから
俺はまっすぐ前を向いて歩いていける
「え?なんで、急にお礼?」
「蓮くんが俺の運命の人で、本当に良かった」
心からの感謝を込めて。
不思議そうな顔をした蓮くんに、そっとキスをした。
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