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鳳凰(ほうおう)28 side楓

その後、お父さんがお腹空いたと言い出したので、ホテル内の和食レストランへ向かった。 最近、食がずいぶん細くなってるって主治医の先生に聞いてたんだけど、頼んだ松花堂定食をペロリと平らげてしまって。 俺も蓮くんもびっくりした。 でも、予約してあったセミスイートの部屋に入ると、疲れが出たのか、すぐにベッドに横になると言った。 「大丈夫ですか?」 「ああ。少しはしゃぎ過ぎたかな」 おどけた口調だったけど、顔色はあまり良くはなくて。 身体を支えながら、車椅子からベッドへと移動する。 「もう、休んでください。今日はあちこち行って、お疲れでしょうから」 大きなクイーンサイズのベッドの真ん中に横たえて、掛け布団を掛けようした手を、お父さんがぎゅっと握った。 「え…」 「あ…」 びっくりして、思わずお父さんの顔を見ると、お父さんの方が俺よりもっとびっくりした顔してて。 「す、すまない…」 慌てて手を離し、バツが悪そうに目を逸らして、布団の中へと手をしまいこむ。 その姿に、幼かった頃の自分の姿が重なった。 いつも夕方に仕事へ出かけるお父さんが 休みで家にいた時 寝る時間になり いつも一人で眠っていた布団に寝かされ 「おやすみ」と言って離れていこうとするお父さんの手を無意識に掴んだ でも、一緒に寝て欲しい、なんて我が儘を言うことができなくて 急いでその手を引っ込めたら お父さんは優しく笑って 俺の横に寝転び 引っ込めた手をそっと握ってくれた 握った手の温かさに安心した俺はあっという間に眠りに落ちて その日から お父さんの休みの日はずっと 手を繋いで眠るようになったっけ 「お父さん…俺もちょっと疲れちゃったんで、横で寝てもいいですか?」 当時の温かい気持ちを思い出しながら、ジャケットを脱ぎ。 返事を待たずに、ベッドへと潜り込む。 そうして、あの日のお父さんのように引っ込めた手を握ると、お父さんは困惑した顔で俺を見た。 「…いや、ですか?」 「嫌じゃない。だが、その…」 「俺、小さい頃はお父さんといつも手を繋いで寝てたんです。だから、今日はあの頃に戻った気持ちで眠りたくて。我が儘、許してください」 繋いだ手に、少しだけ力を込めてそう言うと。 「…ありがとう、楓」 お父さんは微笑んで、同じように握り返してくれる。 「蓮くんもおいでよ。たまには親子三人、川の字になって寝るのもいいじゃん」 「え!?」 そんな俺たちを優しい眼差しで見つめながら、ソファに座ろうとしてた蓮くんを呼ぶと、びっくりして目を見開いた。 その顔が、さっきのお父さんにそっくりで。 つい、クスッと笑ってしまった。 「いや、俺はいいよ。さすがに三人は狭いだろ。エキストラベッドもあるし」 「ダメ。今日は三人で寝るの。ほら、早く」 やんわりと拒絶する蓮くんに、少し強く言うと。 しばらく考えた後、しぶしぶって感じでジャケットを脱ぎ、ネクタイを取って。 なぜか溜め息を吐きながら、俺の反対側からベッドへと入ってくる。 「まさか、この歳で親と一緒に寝るとは…」 「いいじゃん。子どもに戻ったみたいでしょ?」 「いや、子どもの時も、一緒に寝たことなんかないし」 「じゃあ、記念すべき初体験だね」 不満そうな蓮くんに、そう返すと。 降参とばかりに両手を上げた。 そんな俺たちのやり取りを、お父さんは楽しそうにニコニコしながら聞いている。 「おまえ…案外、楓の尻に敷かれてるんだな?」 「敷かれてません」 「そうか?」 「そうです」 不貞腐れたみたいな素っ気ない返事に、思わずお父さんと顔を見合わせて笑った。 そんな些細なことが すごく楽しかった

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