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鳳凰(ほうおう)31 side楓

紹介状を書いてもらって、翌日醍醐総合病院を受診することになった。 蓮くんも一緒に来るって言い張ったんだけど、今日はどうしても蓮くんがいないと困るお客様がいて休めなくて。 不安を抱えつつ一人で病院を訪れると、この間まではなかったΩ診療科へ行くようにと言われた。 そういえば、亮一さんがやっと開設できるって言ってたっけ…? 来日が遅れてた亮一さんの友人のお医者さんが、やっと来るからって… その先生が誉さんの言ってた先生なのかな…? いつも入院してた建物とは別の、真新しい建物の入り口には『Ω診療科』の文字と『αの方は原則入館禁止。入館希望の方は総合受付までお越しください』との注意書きが。 蓮くん連れてこなくてよかったかも、なんて思いながら受付を済ませ、指示された待合室へ向かった。 お腹の大きな女の人ばかりが診察を待つその場所で、一人ぽつんと長椅子に座ってると、どんどん大きくなる不安に押し潰されそうになる。 どうしよう… この子たちを守れなかったら… 俺が、こんな生き方してきたから… 考えちゃいけないってわかってるのに、過去のいろんなことが次々に脳裏に蘇ってきて。 考えれば考えるほど、心臓が痛くなって、うまく息が出来なくなって。 「九条楓さん、どうぞ」 苦しさに思わずその場に踞りそうになった時、名前を呼ばれた。 ふらつく足をなんとか動かして診察室へ入ると、座っていたのは小柄で目が大きく、とても可愛らしい若いお医者さん。 「どうぞ、お座りください」 パッと見、女の人かなって思ったけど、喋るとがっつり低い男の人の声で、びっくりした。 指定された椅子に座ると、そのお医者さんはモニターに映し出されたカルテと、俺の顔をまじまじと見比べる。 「九条楓…ああ、あなたが」 「え?」 「ずっと会ってみたかったんだ。亮一が、僕をアメリカからどうしても呼び寄せたかった理由を」 そうして、すごく可愛い笑顔を向けられて、ドキッとした。 「…俺が、理由…?」 「そう。亮一は君のためにこのΩ診療科を起ちあげて、僕をわざわざアメリカから帰国させた。妬けちゃうなぁ」 でも、すぐに口を尖らせて、拗ねた顔をする。 そんな表情も、可愛いんだけど。 「あ、あの…」 「先生、今日は患者さんが多いので、早く診察を」 返事に困ってると、見守っていたベテランっぽい看護師さんが助け船を出してくれた。 「えーっ、折角ずっと会いたかった人に会えたから、もっといろいろ話したかったのにー」 「先生」 「はいはい、わかりましたよー。じゃ、とりあえずこれとこれとこれ、検査よろしく。それじゃ楓、検査後にまたね」 先生は拗ねた顔のまま、カタカタっとキーボードを叩いて。 俺に向かってパチンと可愛くウィンクした。

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