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鳳凰(ほうおう)32 side楓
検査を終えて、診察室に戻ると。
さっきの先生の横に、亮一さんが立ってた。
「お疲れ」
にっこり笑顔の亮一さんとは対照的に、可愛い先生は膨れ顔。
「亮一さん、なんで…?」
「紫音 から連絡もらってね。楓が誉先生の紹介状持ってきたって言うから」
そう言って、先生の肩を両手で揉み揉みすると、先生はその手をパシッと叩く。
「気休く触んないで!仕方なく、だよ!亮一は一応、九条さんの元主治医だし!」
「うんうん、ありがとな、紫音」
亮一さんは叩かれたことを気にした風もなく、その手で紫音先生の頭をわしゃわしゃっと撫でると。
先生は途端に耳まで真っ赤になった。
あれ…?
この反応って…
もしかして、紫音先生は亮一さんのこと…?
「も、もうっ!いい加減、子ども扱いすんの止めてってば!」
「子ども扱いなんて、してないさ。紫音は、俺の一番の親友だからな」
でも、亮一さんがさらりとそう言うと、少し落胆したように小さく息を吐く。
それから、きゅっと唇を引き結んで、真面目な表情に変わった。
「…九条さんの検査の結果だけど」
突然空気がピンと張り積めたものに変わって。
緩んでた心が、緊張できゅっと強張る。
「やはり、心機能が落ちてる。周産期心筋症の危険性が高いから、このまま入院して治療したほうがいい」
「え…」
なんとなく予想していたこととはいえ、はっきりと口にされると全身から冷や汗が吹き出した。
「周産期、心筋症って…」
「心臓が弱り、最悪心不全を起こす可能性があるってこと」
「それは…その…俺が、過去に心臓に負担をかけること、したから…って、こと…ですか…?毎日、発情促進剤打たれたり…抑制剤をたくさん飲んだり…」
カタカタと勝手に震える両手をぎゅっと握りしめて、声を絞り出す。
紫音先生はそんな俺をじっと見つめると、腕を伸ばし、俺の震える手を両手で包み込んだ。
「わからない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。周産期心筋症は、妊娠前に心臓に異常がなかった人もなることがあるから」
真摯な眼差しが。
俺の手を包み込む温かな体温が。
恐怖に飲まれそうになる心を、そっと包み込んでくれる。
「原因を考えるのは無意味なことだよ。今大切なのは、あなたの身体を守ること。少しでも長く、このお腹の中で子どもたちを育てること。その為に、僕たちも出来る限りの医療を提供する。だから、あなたも過去のことを考えることは止めて、お腹の子たちを守ることを考えて。いいね?」
強く、頼もしい言葉に。
俺は小さく頷いた。
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