475 / 566

鳳凰(ほうおう)32 side楓

検査を終えて、診察室に戻ると。 さっきの先生の横に、亮一さんが立ってた。 「お疲れ」 にっこり笑顔の亮一さんとは対照的に、可愛い先生は膨れ顔。 「亮一さん、なんで…?」 「紫音(しおん)から連絡もらってね。楓が誉先生の紹介状持ってきたって言うから」 そう言って、先生の肩を両手で揉み揉みすると、先生はその手をパシッと叩く。 「気休く触んないで!仕方なく、だよ!亮一は一応、九条さんの元主治医だし!」 「うんうん、ありがとな、紫音」 亮一さんは叩かれたことを気にした風もなく、その手で紫音先生の頭をわしゃわしゃっと撫でると。 先生は途端に耳まで真っ赤になった。 あれ…? この反応って… もしかして、紫音先生は亮一さんのこと…? 「も、もうっ!いい加減、子ども扱いすんの止めてってば!」 「子ども扱いなんて、してないさ。紫音は、俺の一番の親友だからな」 でも、亮一さんがさらりとそう言うと、少し落胆したように小さく息を吐く。 それから、きゅっと唇を引き結んで、真面目な表情に変わった。 「…九条さんの検査の結果だけど」 突然空気がピンと張り積めたものに変わって。 緩んでた心が、緊張できゅっと強張る。 「やはり、心機能が落ちてる。周産期心筋症の危険性が高いから、このまま入院して治療したほうがいい」 「え…」 なんとなく予想していたこととはいえ、はっきりと口にされると全身から冷や汗が吹き出した。 「周産期、心筋症って…」 「心臓が弱り、最悪心不全を起こす可能性があるってこと」 「それは…その…俺が、過去に心臓に負担をかけること、したから…って、こと…ですか…?毎日、発情促進剤打たれたり…抑制剤をたくさん飲んだり…」 カタカタと勝手に震える両手をぎゅっと握りしめて、声を絞り出す。 紫音先生はそんな俺をじっと見つめると、腕を伸ばし、俺の震える手を両手で包み込んだ。 「わからない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。周産期心筋症は、妊娠前に心臓に異常がなかった人もなることがあるから」 真摯な眼差しが。 俺の手を包み込む温かな体温が。 恐怖に飲まれそうになる心を、そっと包み込んでくれる。 「原因を考えるのは無意味なことだよ。今大切なのは、あなたの身体を守ること。少しでも長く、このお腹の中で子どもたちを育てること。その為に、僕たちも出来る限りの医療を提供する。だから、あなたも過去のことを考えることは止めて、お腹の子たちを守ることを考えて。いいね?」 強く、頼もしい言葉に。 俺は小さく頷いた。

ともだちにシェアしよう!