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鳳凰(ほうおう)36 side楓
「楓っ!?」
真っ白な世界に、蓮くんの姿が突然入ってきた。
今にも泣き出しそうに歪んだ顔の蓮くんの向こうには、見慣れた病院の天井が見える。
…戻って…来た…?
「楓っ!楓…わかるか?俺がわかるか!?」
ぼんやりとした頭で、そう感じていると。
蓮くんが切羽詰まった声で俺の名を呼んで。
「…れ…く…」
押し出した声はガラガラで、聞けたもんじゃなかったけど。
「楓っ…よかった…」
蓮くんの大きな腕が俺を包み込んで、震える声で耳元で囁いた言葉に、現実の世界に戻ってきたんだって実感が沸いてきた。
お父さん…
俺を見送って、幻のように消えてしまった二人の姿を思いだし、目の奥が熱くなる。
涙が零れないように奥歯を噛み締めながら、そっとお腹を触ると、膨らんでいたはずのそこはペタンコだった。
「…蓮くん…赤ちゃん、は…?」
恐る恐る訊ねると、蓮くんは俺の肩に埋めていた顔を上げ。
滲んだ涙を指で拭い、俺を安心させるように微笑む。
「無事だよ。二人とも、元気だ。予定よりだいぶ早く産まれちゃったから、二人とも今は保育器のなかだけど、心配した疾患とかも今は見つかってないし、すくすく育ってるよ」
そうして、ポケットからスマホを取り出し、俺に向けた。
そこには、保育器の中ですやすやと眠る赤ちゃんが二人、映っていた。
「…よかった…」
時折ぴくりと手足を動かす様子に、ちゃんと生きてるんだってわかって。
堪えていた涙が溢れる。
「頑張ってくれて、ありがとうな、楓」
目尻を伝った涙を、蓮くんが指先で拭って。
俺を労るように、おでこにキスをくれた。
その温かい唇を感じながら、またあの夢を頭の中で再現する。
「ううん…俺じゃない…お父さんたちが、助けてくれたの…」
「え…?」
俺の言葉に、蓮くんが驚いたように動きを止めた。
「あれ…もしかしたら、向こうの世界の入り口だったのかな…」
「…楓?なんの、話だ…?」
「真っ暗闇だった。遠くに光があって…そっちに向かって歩いてたら、諒お父さんに止められたの。そっちじゃないって。それで、ちゃんとした出口に連れてってくれて…あの子たちを、俺に渡してくれたの。剛お父さんと、二人で」
あの時のお父さんたちの優しい微笑みが、目蓋の裏に浮かんで。
また、涙が零れる。
「諒お父さんが櫂を、剛お父さんが凪を俺に渡してくれた。ねぇ…剛お父さん…は…?」
もう答えがわかっているはずの問いを、震える声で唇に乗せると。
蓮くんは、一瞬辛そうに顔を歪め。
そっと目を伏せた。
「…亡くなったよ。あの子たちが産まれる、30分前だった」
予想していた答えだったけど、言葉として耳に入ってきた瞬間、鋭い痛みが胸を貫く。
「あの子たちの顔、見せてやりたかったけど…そっか…お父さん、子どもたちの顔、ちゃんと見てくれたんだな…」
どこか安堵したように呟いた蓮くんの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちて。
俺たちは抱き合って、二人で声を殺して咽び泣いた。
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