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鳳凰(ほうおう)37 side楓
その後、ナースコールでやってきた紫音先生に、急激な心臓の収縮機能の低下により、緊急帝王切開で赤ちゃんを取り上げたこと、その時の出血により一時的に危篤状態に陥り、二週間近く意識不明だったことを教えられた。
「気分はどう?苦しくはない?」
「はい、特には」
「そう。でも、意識が戻ってよかったよ。君の旦那様、殆ど寝ずに君に付きっきりだったから、そろそろ倒れるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。亮一やお友達がいくら交代するから休めって言っても、全然言うこと聞かないんだもん」
困ったように肩を竦めた紫音先生に、ちらりと横目で見られて。
蓮くんはバツが悪そうに、顔を背ける。
「櫂くんと凪くんは、元気だよ。あの子たちもまだ保育器のなかだから、会わせてあげられないけど…」
「さっき、蓮くんに二人の動画、見せてもらいました。…あれ?先生、あの子たちの名前…」
さらりと先生が子どもたちの名前を口にしたのを、不思議に思うと。
「ごめん、一昨日出生届出してきた。本当は楓と相談しなきゃいけなかったんだけど、もうギリギリだったから…」
俺の疑問には、蓮くんが答えてくれて。
もう一度、さっきの子どもたちの動画を俺に向けた。
「こっちの…目元が楓に似てる方が櫂、こっちが凪。ごめんな、俺が勝手に決めて…」
それは夢の中で
俺が呼んだ名前と同じだった
そのことが
なぜかとても嬉しくて…
「ううん…ありがとう、蓮くん」
込み上げる涙を堪えながら頭を下げると、蓮くんは少しほっとしたように微笑む。
「でも、ずっと俺に付きっきりだったって…もしかして…お父さんの、お葬式出てない…?」
それから、気になったことを訊ねると、今度は困ったような微笑みに変わった。
「ごめん、俺のせいで…」
申し訳なさに、目を伏せると。
蓮くんは慌てて首を横に振る。
「違う。俺が、楓の側を離れない選択をしただけだ。お父さんは、怒ってるかもしれないけど…でも、俺は後悔はしてないよ。この半年間、お父さんとはいろんな話をした。昔、あの家にいた時よりもずっと、たくさんの話をした。生まれて初めて、親子としてすごく濃密な時間を過ごすことができたと思う。だから、悔いはない」
「でもっ…」
「夢の中のお父さんは、どうだった?どんな顔、してた?」
逆にそう問われて。
俺はまたあの夢を頭の中で再生した。
俺に凪を託してくれたお父さんは…
「すごく…穏やかな顔してた…柔らかくて、とっても優しい顔…」
「そっか…龍が教えてくれたお父さんの最期の顔も、すごく穏やかだったって。最期は苦しまずに、眠るように逝ったって言ってたよ。きっと、楓が見たのと同じ顔だったんだろうな」
微笑んだ蓮くんの頬を、また涙が伝う。
俺は零れそうになる涙をなんとか堪えて。
伸ばした手で、そっと蓮くんの涙を拭った。
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