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鳳凰(ほうおう)38 side楓

数日後には、子どもたちに会いに行く許可が出て。 車椅子を看護師さんが押して新生児室へ向かい、二つ並んだ保育器の前に連れていってくれた。 保育器の中、凪は眠っていたけれど、櫂は目を開けてふよふよと手足を動かしている。 「抱っこしてみますか?」 その可愛らしさに釘付けになっていると、看護師さんがそう言った。 「え?いいんですか?」 「もちろんです」 タオルにくるまれた櫂を受け取ると、小さいながらもずっしりと重みを感じる。 俺に抱かれた櫂は、手足を動かすのを止めて、じっと俺の顔を見つめた。 「…はじめまして、櫂」 そっと囁くと、まるで返事をするように右手だけをふよっと動かす。 その無垢で清らかな瞳に 命の重みに 言い知れない喜びと感動が沸き上がってきた 「…生まれてきてくれて…ありがとう…」 こんな日が来るなんて思わなかった あの日 あの子を失ってから もう二度とこんな日は来ないだろうと諦めてた あの子を失った哀しみがこれで消えるわけじゃないけど あの子のことはこの先も忘れることはないけど でも今は 素直に嬉しくて 心から幸せだと思う 「ありがとう…」 俺の 俺と蓮くんのところに生まれてきてくれて 本当にありがとう……… 「あら…凪くんも起きたみたい」 櫂のつぶらな瞳を見つめながら、溢れる幸せを噛み締めていると、看護師さんの声が聞こえて。 顔を上げると、保育器の中の凪が、目をぱっちり開いていた。 「凪くんも抱っこしてあげてください」 看護師さんはそう言って櫂を保育器に戻すと、代わりに凪を抱えて、俺に手渡す。 櫂と同じく、タオルにくるまれた身体を腕の中に迎え入れ、蓮くんによく似た涼やかで凛々しい瞳を見た瞬間。 胸の中に、櫂を抱いたときとはまた違う感情が溢れた。 それは喜びと感動と哀しみが混じり合ったような 不思議な感情 「…やっと…会えたね…」 無意識に呟いた言葉が、耳に入った瞬間。 17歳のあの日の絶望と哀しみが一気に甦ってきて。 涙が、一気に溢れる。 「九条さん?どうかされましたか!?」 根拠なんてない ただの妄想かもしれない でもなぜだろう わかるんだ 「…ありがとう…凪、ありがとう…」 頬を伝った涙が、ポトリと凪の小さな手に落ちて。 その手を、凪が俺に向かって伸ばす。 顔を寄せ、小さな手を頬にくっつけると、その温かな体温が触れたところからじわりと広がって。 生きている命の輝きに 心が震えて 「……ありがとう……」 あの時 助けられなくてごめんね もう一度 俺たちのところにきてくれて 本当にありがとう

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