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鳳凰(ほうおう)39 side楓

入院中は、毎日のように誰かがお見舞いにきてくれた。 蓮くんはもちろん、那智さんも二日と空けずに来てくれて、その度に櫂と凪の動画を見ては、可愛いを連呼しながら見たこともないくらいデレデレに顔を崩して笑ってて。 誉先生と一緒に、まるで自分の子どものように喜んでくれるその姿に、胸が熱くなった。 亮一さんは診察の隙間にちょこちょこ顔を見に来てくれて、時折紫音先生と鉢合わせすると、ちゃんと仕事しろって怒られてたけど。 それでも、飄々とした態度の裏で、俺のことをすごく心配してくれてるのが伝わってきて。 申し訳なさとともに、感謝の気持ちでいっぱいになる。 春くんと和哉もそろってお見舞いに来てくれて。 和哉からは、来月ホテル内に従業員用の託児所を設置するという話を聞いた。 「だから、体調戻ったら早く戻ってきて、バリバリ働いてくださいね。あなたがいつ復帰するのかって、しつこく聞いてくるお客様がいらっしゃって面倒なので」 憮然とした表情でそう言った和哉の後ろで、春くんが困ったように笑ってて。 いつもの伝わりにくい優しさに、俺は笑顔で頷いた。 春くんは櫂と凪の写真を蓮くんにもらって、それをスマホの待ち受けにしたようで、それを楽しそうに俺に見せてくれた。 和哉は、呆れた顔してたけど。 伊織さんも仕事が忙しいのに、両手に抱えきれないほど大きな薔薇の花束を抱えてお見舞いに来てくれて。 その日は看護師さんたちも一日中なんだか楽しそうだった。 他にも、休みの日を使ってホテルのスタッフの人たちが代わる代わる来てくれた。 みんなの優しさや温かさに包まれて。 胸の一番奥底に残っていた、真っ黒い痼のようなものが浄化されていくような気がして。 こんなに素敵な人たちに囲まれた自分はなんて幸せなんだろうと。 この幸せを、あの子たちにちゃんと繋いでいきたいと。 そう、強く心に刻んだ。 「ベビーベッドは、昨日届いて寝室に入れておいたよ。オムツも買ってあるし、ベビーバスも借りたし、ミルクも3缶用意したし…服は必要最低限だけ俺が適当に選んじゃったから、もう少し体調回復したら、二人で買いにいこう」 二人とも問題なく、すくすく大きくなり。 俺の身体も順調に回復して。 幸運なことに、同じ日に退院できることになった。 その前の日に蓮くんが病室へやってきて、自ら書いたらしいメモを俺に見せながら、チェックする。 「うん、ありがとう。ごめんね、用意全然出来なくて…」 「仕方ないよ。急だったしさ。一応、小夜さんと志摩くんに必要なものは聞いて揃えてあるから、大丈夫だと思う。まぁ、明日から俺も育児休暇取ってあるし、足りないものあったら、すぐに買いにいけるからさ」 「うん」 仕事して、病院に顔を出して。 その合間に買い物行ってくれて。 蓮くんにだけ負担かけてしまったのが申し訳なくて、落ち込んでると。 蓮くんは気にするなって言うように、俺の頭をポンポンと撫でた。 「これから二人で協力していかなきゃいけないからさ、出来る方が出来ることをやる。な?」 「うん」 「よし。じゃあ、明日の朝迎えに来るから。今日はぐっすり眠ること。わかった?」 「わかった」 俺が頷いたのを確認して、蓮くんが立ち上がる。 「あ、蓮くん」 その手を掴んで、引き留めた。 「明日ね、家に帰る前に寄って欲しいところがあるの」 「どこ?」 「…九条の、家」 俺の言葉に。 蓮くんが息を飲む。 「それ、は…」 「お父さんに、ちゃんとお礼を言いたいし…それにね、ずっと避けてたけど…龍に会わなきゃいけないって、そう思うから…」 迷うように揺れる瞳をまっすぐに見つめ返すと。 漆黒の瞳が、さらに大きく揺れた。

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