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鳳凰(ほうおう)42 side楓

「いらっしゃいませ」 出迎えてくれた小夜さんは嬉しそうに、でも少し寂しそうにそう言ったから。 「…ただいま、小夜さん」 迷いながらも、答えると。 小じわの増えた瞳から、涙が零れ落ちた。 「お帰りなさいませ」 その一言に、懐かしさが一気に込み上げてくる。 久しぶりの家は、記憶の中の景色とあまり変わっていなくて。 でも、俺の知らない匂いがした。 「さあ、どうぞ。退院したばかりで、お疲れでしょう。お茶を淹れますから、少しお休みください」 「ありがとう」 廊下を進み、リビングへと案内される。 「柊さん蓮さん、いらっしゃいませ!」 ドアを開けると、世絆を抱っこした志摩が迎えてくれた。 「柊さん、お疲れさまでした。身体、もう大丈夫なんですか?」 「うん、ありがとう」 俺たちが話していると、抱っこされてた世絆がむずがって。 床に下ろしてやると、まだ覚束ない足取りながらも、トテトテと歩き出す。 「え…世絆、もう歩くの?まだ9ヶ月くらいでしょ?」 「そうなんです。一昨日から急に。龍さんも歩くの早かったって小夜さんが言ってたから、似てるんでしょうね」 言った瞬間、しまったって顔で口をつぐむから、俺は苦笑いを返した。 「そうなんだ。蓮くんも、早かったの?」 「いや、俺は普通に一歳過ぎくらいだったって聞いたけど」 「へぇ~、αってなんでも早いのかと思ってた」 「それは関係ないんじゃないのか?体格差が出てくるのって、小学校の高学年くらいからだし。出会った頃は、俺より楓の方が大きかっただろ」 「あ、そっか」 俺が普通に会話をしているのに、志摩はホッとしたように頬を緩めて。 「双子ちゃんたち、よかったらここにねんねさせてください。ずっと抱っこしてると、疲れちゃいますよね」 ソファのすぐ横にあるベビーサークルの中に引かれている布団を指差した。 「ありがとう」 抱っこしてる間にまた眠ってしまった凪をそっと寝かせ、そのすぐ横に蓮くんが櫂を寝かせると、手と手が重なってまるで手を繋いでるみたいに見える。 「…可愛い」 「ホント、すっごい可愛いですっ」 思わず親バカ発言してしまうと、志摩が大きな声で被せてきた。 「まぁ…本当に二人ともお可愛らしいこと。凪くんは蓮さんに、櫂くんは楓さんにそっくりで」 お茶を運んできた小夜さんも一緒に覗き込んできて、笑顔で二人を見つめる。 「うー、うー」 「あっ、ちょっとせっちゃん!危ないからっ!」 俺たちが双子に釘付けになってたら、サークルを支えに立ち上がった世絆がガタガタとサークルを揺らして。 蓮くんが慌ててサークルを支え、志摩が世絆を抱っこして引き離した。 「あらあら、世絆くんも双子ちゃんたちと仲良くなりたいんですねぇ」 焦った俺たちを後目に、小夜さんは楽しそうに笑う。 「従兄弟同士、年も近いですし…きっと兄弟みたいに仲良くなるんでしょうね」 その言葉に、蓮くんと龍と三人で楽しく過ごしていた頃の記憶が、一気に蘇ってきた。 あの頃の俺たちのように この子たちもきっと三人で笑って時を重ねるんだろう そんな未来を 奪いたくはないから… 「…そう…ですね」 頷いた俺の肩を、蓮くんがそっと抱いてくれた。 わかっているよ、というように。

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