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鳳凰(ほうおう)43 side楓

「お父さん、櫂と凪です。お父さんがあの時、俺を導いてくれたから、俺もこの子たちも今こうして生きてます。本当にありがとうございました」 櫂と凪の顔を仏壇に向けながら手を合わせ、飾られた写真に向かって語りかけた。 写真の中のお父さんは、キリッとした厳しくも見える表情でまっすぐにこっちを向いてて。 亡くなる間際にたくさん優しい笑顔を見せてくれたけど、やっぱりこういう表情の方が俺にはしっくりくる。 本当は溢れんばかりのの優しさを持っているのに それを内に秘めたまま 誰にも隙を見せず 王者の風格で孤高の道を行く それが俺のお父さんのイメージだから 「あの時の言葉通り、俺、この子たちとみんなで幸せになります。だから、見守っててください」 もう一度手を合わせ、顔を上げると。 蓮くんが優しく微笑んでくれた。 「柊さん、お願いがあるんです」 後ろで俺たちを見ていた志摩が、声をかける。 「ピアノ、弾いてもらえませんか?」 「え…?」 「一番奥の部屋のピアノって、柊さんのですよね?このお屋敷、僕たちが結婚するとき部分的に改装したんですけど、あの部屋だけはなにも手を付けなかった。お父さん、たぶんしゅ…楓さんにいつか帰ってきて欲しいって、本当はそう思ってたんじゃないかって思うんです。その為に、あの部屋には手を付けたくなかったんだろうって」 「それは…」 「だから、お父さんのために、弾いてもらえませんか?」 そう懇願されて、断る理由なんてあるわけなかった。  「うん、わかった」 頷いて、奥の部屋へ向かう。 懐かしいドアを開くと、キィっと軋む音がして。 明かりを点けると、俺の記憶の中と何ら変わらない、懐かしい風景が広がっていた。 壁一面の本棚にびっしり詰まった楽譜と、部屋の中央に置かれた漆黒のグランドピアノ。 俺は凪を小夜さんに預け、ピアノの前に座る。 うっすらと積もった埃を払い、蓋を開け。 指先でドの鍵盤を弾いてみる。 部屋に響いた音は狂いがなくて、ちゃんと調律されていたことがわかって。 弾く人なんてもう十何年もいなかったはずなのに、それでもこのピアノを大切にしてくれていたお父さんの心に、胸が締め付けられた。 「じゃあ…モーツァルトのレクイエムを」 俺は、ここに座ってピアノを弾いていただろう諒お父さんと、それを傍らで聞いていたであろう剛お父さんの姿を思い浮かべながら、鍵盤を弾く。 ようやく会うことが出来た二人へと届くように ありったけの気持ちを込めて 途中で、ドアが開く気配がしたけど。 気を逸らさないように集中して、最後まで弾ききった。 「…楓…」 しんと静まり返った部屋に、ぽつりと俺の名前を呼ぶ声が響く。 それは 忘れたくても忘れられなかった声 無意識に震える手を握り締めて、ゆっくりと声のした方に顔を向けると。 「…龍…」 俺の記憶の中よりずっと大人になった龍が、立っていた。

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