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鳳凰(ほうおう)44 side楓
記憶にあるのは、少年の瑞々しさを纏った太陽のように明るい姿。
そして沸き上がる怒りも露に俺を殴った、修羅のごとき顔。
でも、目の前にいるのはそのどれとも違う、大人の落ち着いた雰囲気と静謐な湖のような瞳の、俺の知らない龍だった。
あの日のことは、昨日のことのように覚えているのに。
龍の姿は、俺たちが離れてもうずいぶんと長い時間が経ってしまったことを伝えていて。
哀しさと切なさが胸を締め付ける。
龍は俺の名前を呼んだっきり、何か言いたげに口を開いては、戸惑うようにまた閉じることを何度か繰り返して。
結局なにも言い出さないまま、視線を床に向けた。
俺も、話をしようとここへきたものの、なにを話したいのかまだ整理がつかなくて。
でも、このままじゃ拉致があかないと、無理やり口を開く。
「…久しぶり、龍」
無意識に放った言葉は、自分でもわかるほど震えていて。
瞬間、ばっと顔を上げた龍は、勢いよく膝をつくと、頭を床に擦り付けて土下座した。
「ごめんっ…ごめん、楓っ…ごめんっ!」
ぎゅっと喉が絞られるように苦しくなって、思わず息を止める。
「許してもらえるなんて、思ってない。許せなくて当然のことを、俺はしてしまった。死んで償えというなら、俺は今すぐ命を絶ってもいい!本当にごめんっ…ごめんなさい…」
謝罪の言葉は、最後は涙混じりで。
その言葉に、じくじくと胸の奥が痛みを訴え、呼吸が段々と浅くなっていく。
「楓っ…」
足元がぐらついて、よろけそうになった俺を蓮くんが片手で支えてくれた瞬間。
部屋の中に世絆の激しい泣き声が響いた。
「せっちゃん!?どうしたの!?」
志摩があやしても、ますます火が着いたように泣き喚いて。
ついには志摩の腕を逃れようとするみたいに暴れて、落としそうになった志摩が慌てて床に下ろすと、ハイハイで龍の元へ行き、まるで龍を庇うようにその身体にしがみついて泣く。
「…せっちゃん…」
その姿に、言葉を失くして呆然としていると。
志摩も龍の側に跪いて、世絆の背中をそっと撫でて。
それから俺に向かって頭を下げた。
「っ…志摩!なにやってんだっ…」
「僕は、龍さんの妻ですから!龍さんの罪は、僕も一緒に背負います。どんな罰も受けます!だからっ…」
「やめろっ!おまえには関係ないっ!これは、俺の罪だ!」
「やめませんっ!」
互いを庇い合う二人と、なにかを訴えるように泣き続ける世絆の姿に。
苦しくなって、思わず目を伏せた。
俺が望むことは
こんなことじゃない
俺が受けた苦しみを
なんの罪もない志摩や世絆に背負わせるなんて望んでない
俺が望むこと
それは……
肩に置かれた俺を支えてくれる蓮くんの手を、縋るように掴んだ。
それを蓮くんがぎゅっと握り返してくれて。
その温もりを感じながら、口を開く。
「…もう、いいよ。罪を償って欲しいなんて、もう思ってない。だから…二人とも、顔を上げて」
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