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鳳凰(ほうおう)45 side楓
俺の放った言葉に。
龍は心底驚いた表情を浮かべながら、顔を上げた。
「…許して…くれるのか…?」
その問いかけには、首を強く横に振る。
「勘違いしないで。俺は、理不尽を許した訳じゃない」
なんの罪もないあのこを奪われたこと
その事実はきっと一生許すことなんて出来ないだろう
「あのこを俺から…俺たちから奪ったことは、絶対に許せない。でも…だからって、龍の命を奪ったって、あのこが戻ってくるわけじゃない。それに、そんなことをしたら、志摩と世絆を悲しませてしまう。俺は…俺の大切な人に、俺と同じ苦しみを味わって欲しくないんだ。地の底を這いずりながら生きていくような感覚を知っているのは、俺だけでいい」
一気に言葉を紡ぐと、龍の瞳が戸惑ったように揺れる。
「…じゃあ…じゃあ、俺はどうしたら…どうやって償えばいいんだ…」
俺は、自分を落ち着かせるように大きく息を吐き出すと。
固唾を飲んで成り行きを見守っている小夜さんから、凪を受け取った。
「…この子を抱いて」
そうして、凪を抱いた両腕を伸ばし、龍へと差し出す。
「え…」
「俺の、産んだ子だよ。俺と蓮くんの子。この子を抱いて」
動揺を隠せない様子の龍に、無理やり凪を押し付けると。
龍に抱かれた凪は、その顔をじっと見上げた。
その視線から逃れるように、龍は助けを求めるような瞳で俺を見る。
「重い、でしょ?命の重さ、ちゃんと感じるでしょう?」
「っ…楓っ…」
「俺が失った命の重さを、忘れないで」
ゆっくりと、想いを込めながら伝えた言葉に。
龍はビクッと小さく震えた。
「…ずっと、見てるから。これからの龍を、ずっと見てるから。龍が大切な人たちを、絶対に悲しませないで。志摩と世絆を、全身全霊で幸せにして。それを、俺はずっと見てるから」
「楓…」
「もし、二人を泣かせるようなことしたら…今度こそ、許さないから」
ぎこちないだろう微笑みを、それでも無理やり浮かべると。
龍の双眸から、大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
「ごめん、楓っ…俺、頑張るからっ…命を掛けて、二人を幸せにするからっ…」
後から後から溢れて止まらない涙に、もしかしたら龍もずっと苦しんでいたのかもしれないと、そう感じて。
ずっと心の奥で痼のように固まっていた黒い感情が、少しだけ解けていくような気がした。
「楓さん、ありがとうございます。僕、ずっと横で龍さんを支えていきます。二人で世絆をちゃんと育てていきます。だから、僕たちのこと、ずっと見ててください」
まだぐずぐずと泣いている世絆を抱っこしながら、志摩が龍にピタリと身体を寄せる。
その三人の寄り添う姿に、どこかホッとする自分を感じて。
今度は自然に笑みを浮かべることが出来た。
「うん。ありがとう、志摩。櫂と凪のことも、可愛がってあげてね。そして俺にも、世絆のこと可愛がらせてね?」
「は、はいっ!もちろんですっ!」
志摩が、大きく頷いて。
「…ありがとう、楓…」
小さく何度も頷きながら涙を流し続ける龍の腕から、凪を受け取る。
俺を守るようにずっと横に寄り添ってくれてた蓮くんを見上げると、微笑んでいる蓮くんの瞳にもキラリと光るものが見えて。
でもなにも言わずに、俺の肩を抱き寄せてくれて。
俺はそっと、その大きな胸に頬を埋めた。
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