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番外編 朱嘴鸛(シュバシコウ)1 side蓮

「ただいま」 玄関で靴を脱ぎながら、奥のリビングに向かって声をかけると。 程なく、パタパタとスリッパの音が聞こえてくる。 それに思わず頬が緩んだ瞬間。 「おかえり、蓮くん」 誰よりも愛おしい俺の楓が、なによりも可愛い子どもたちを両腕に抱っこして、リビングのドアを開けた。 「ただいま、楓、凪、櫂」 三人を両腕の中に包みながら、楓の柔らかい唇にキスをして。 次に、凪と櫂のぷにぷにのほっぺにキスをすると、楓は恥ずかしそうにほんのりと頬を赤くし、子どもたちは嬉しそうにきゃっきゃと声を上げる。 「も、もうっ…子どもたちの前ではやめてってば…!」 「いいじゃん。パパとママが仲良しなことを見せるのはいいことだって、どこかの育児ブログにも書いてあったぞ?」 「な、仲良しってそういうことじゃないでしょ!俺、夕飯の仕上げしてくるからっ!」 耳まで赤くしながら、怒ってる風に子どもたちを俺に押し付け、代わりに俺の鞄を奪って。 楓は逃げるようにリビングへと戻っていった。 「ふっ…可愛い。なぁ凪、櫂?ママ、可愛いなぁ?」 思わず腕の中の二人に問いかけると、なぜか楽しそうにニコニコ笑ってる。 俺はもう一度二人のほっぺにキスをして、リビングへと入った。 リビングには、クリームシチューの優しい香りが充満している。 キッチンに立って、忙しなく料理の仕上げにかかってる楓を横目に見つつ、ベッドルームのドアを開け。 二人を床に座らせて、スーツを着替えていると。 櫂がハイハイしながらベッドに近付き、その縁に手を掛けて。 すっくと雄々しく立ち上がった。 「おお…すっかり捕まり立ちマスターしたなぁ」 一週間ほど前から、櫂は捕まり立ちを始めて。 最初の2、3日は危うかったものの、それ以降はなんの不安も感じさせないしっかりとした足取りで立っている。 「8ヶ月でこれだから、おまえも世絆と一緒で歩くの早いのかもなぁ」 どこか楽しそうにベッドを横移動する櫂を見ながら、部屋着のスウェットに腕を通し。 櫂を見つめながら床に座ったままの凪を、抱き上げた。 「凪は、そんなに早く歩かなくてもいいんだぞ。二人とも歩きだしたら、楓がもっと大変になるからな」 俺の言葉に不思議そうな眼差しを向ける凪に、ほっぺをくっつけてスリスリしてやると、きゃっきゃと嬉しそうな声を上げる。 「あーっ、あーっ!」 その無邪気な笑顔がかわいくて何度も頬擦りしていると、不意に足元で声がして。 そっちに目を向けると、いつの間にかハイハイで移動してきたらしい櫂が、俺の足にしがみついてまるで抗議するように唸り声を上げた。 「わかったわかった。櫂も抱っこな」 両腕で抱えてた凪を、右腕で抱え直し。 左腕で櫂を持ち上げて、同じように頬擦りしてやると。 凪と同じように声を出して喜ぶ。 「ホント、二人ともパパが大好きだよね」 その時ドアが開いて、楓が聖母のような微笑みを俺たちに向けた。 「ご飯、用意できたよ」

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