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番外編 鷦鷯(ミソサザイ)6 side和哉
…ホント、忙しいやつ…
「なんだよ、その顔」
さっきの言葉のどこにひっかかってそんな顔するのか、さっぱりわからなくて訊ねると。
春は俺を離し、ベッドの上でなぜか正座した。
「あの…あのさ」
「うん?」
「その…かずってさ…昔…蓮と、そういう関係…だったんだよね…」
「ああ、うん、まぁ…少しだけな」
「はぁぁぁ…」
俺も起き上がって、頷くと。
でっかい溜め息を吐いて、ベッドの上に突っ伏してしまう。
「…ってか、なに?今さら。おまえだって楓と…」
「ないよ」
「え?」
もしかして嫉妬してんのかな、と思って。
でもお互い様だろって言おうとしたら。
「俺…楓とはなんもない」
思ってもみなかった事実を、打ち明けられた。
「ええ!?だって、2年も一緒に住んでただろ?」
「そうだけど…」
「…もしかして、楓に拒否されてた…?」
「ううん…楓はいいよって言ってくれた。けど…なんか、虚しいじゃん?心がないのに、身体だけ繋げてもさ…。だから、俺が断ってたの」
のろのろと顔を上げ、なぜか困ったような顔で笑う春の姿に、またツキンと心が痛む。
そう、だよな…
身体だけを繋げる虚しさなんて、俺が一番知ってるじゃないか…
「だからさぁ、その…俺、ハジメテ、なんだよね…」
思わず俯いた俺の耳に、どこか恥じらうような声が聞こえて。
「…は?」
反射的にまた顔を上げると、目元を赤くした春が、照れ臭そうに鼻の頭を指で掻いた。
「だから、その…かずを満足させられるかわかんないけどさ…俺、めっちゃかずを気持ちよく出来るように頑張るからっ!だから…あんま、蓮と比べないでくれると、嬉しい、かな…なーんてねっ」
俺の想像の斜め上…いや、宇宙人と会話してんのかと思うくらいの話の展開に、一瞬思考が停止した。
けど。
「…かず?どうかした?俺、なんか変なこと言った?」
ああ…
そっか…
わかったわ
「…ブフッ」
「え?なに?なんで笑ってんの!?」
俺
おまえのそういうとこに
いつも救われてたんだ
「ぶぶっ…あはははっ…」
「ちょっ、かず!?どうしたの!?頭、おかしくなっちゃった!?」
突然笑い出した俺を見て、オロオロする春の首に腕を回して引き寄せ。
ちょっと強引に、唇を重ねる。
まいったな…
俺、実はめちゃめちゃこいつのこと好きなのかも
だってさ
俺がこいつのハジメテの男だってことが
なんか結構嬉しかったんだよね
「か、かず…?」
「まぁ…しょーがないから、おまえの童貞、俺がもらってやるよ。だから、俺を最初で最後の男にしろよ?」
鼻先でニヤリと笑って見せると、春は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まって。
「うんっ!」
それから、本当に幸せそうに笑った。
「愛してるよ、かずっ!」
俺も
おまえを世界で一番愛してる
でも今はまだちょっと恥ずかしいから
言葉にするのはまたいつか、な
心の中で、そう応えると。
春はまるでわかってるよとでも言うように、笑いながら小さく頷いた。
End
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