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番外編 鷦鷯(ミソサザイ)5 side和哉

まるで覚えたての中学生みたいな、唇を擦り合わせるだけのおままごとみたいなキスを解くと。 春は、ぐりんと俺の身体を反転させて向かい合わせにして、俺の額に自分のそれをくっつけた。 「エヘヘ…」 「…なんだよ」 「いや…すげー嬉しいなと思って。だってさ…俺、好きな人に好きって言われるの、初めてだもん」 ニヤケた顔で言った言葉に、胸がきゅっと苦しくなる。 「…うん…俺も…」 俺たちずっと 永遠に叶うことのない恋をしてたから… その頃のことを思い出して、微かな痛みに顔を歪めると。 春の温かい唇が、また重なった。 今度はしっとりと、少し長く。 「絶対絶対、大事にする。だから、これからは恋人として、楽しい思い出いっぱい作ろ?」 間近にある大きな瞳は、これから来る未来への喜びと希望に溢れるようにキラキラと輝いていて。 「…うん」 その煌めきが、痛みを優しく包んで消し去ってくれる。 ずっと 俺は楓になりたかった だって俺が俺であるかぎり 蓮さんが振り向いてくれることはないんだから でも春は 俺がいいって言ってくれる 成松和哉っていう俺自身が好きだって言ってくれる そんな些細なことが こんなにも幸せなことだなんて…… 「…ありがとな、春…」 思わずそう口にすると、春はまた目を真ん丸にして。 「はぁぁぁ…」 なぜか大きく息を吐き出すと。 「その顔、反則だよ…」 俺の耳元で、ボソリと呟いた。 自分がどんな顔をしたのか想像しようとした瞬間、ふわりと身体が浮く感覚がして。 「う、わぁっ…!」 気が付いたら、春の肩に担がれていた。 「ちょっ…なんだよ!降ろせ!」 「ダメ。そんな顔されたら、我慢できないもん」 「我慢できないって、なに!?」 バタバタと暴れたけど、春の腕はびくともしなくて。 そのままベッドルームへと運ばれる。 「ちょおっ…おまえ、なに考えてっ…うわっ!」 乱暴にベッドへと落とされ。 慌てて起き上がろうとしたところにのし掛かられて。 身動き出来なくなる。 「…かず…好き…だから…かずを抱きたい…ダメ?」 どこか切なさを含んだ眼差しに、ドキリと心臓が跳ねた。 けど…。 「…ダメ」 「えっ…」 「だって、今日はローションとかなんも用意してないし。別に俺が抱かれる側なのはいいけど、痛いのはやだ。俺はΩの楓とは違って、自分で濡れたりしないんだからさ」 そう言うと、春は困ったような苦しいような、変な顔をした。

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