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番外編 Robin(ロビン)3 side蓮

今年こそは、忘れられないクリスマスにしよう 楓の寝顔を見つめながら、そう心に決めたのに。 クリスマスまであと数日に迫ったこんな時期に予約が取れるようなレストランなんて、もうあるわけがなくて。 うちのホテルも当然満室だし。 それ以上になんだかんだと仕事が忙しく、結局プレゼントすら選ぶ余裕もないまま、クリスマスイブを向かえてしまった。 まいったな… どうしようか… 「蓮さん?なにかマズイことでもありましたか?」 キーボードを叩いていた指を止め、息を大きく吐き出すと。 いつの間に部屋に入ってきていたのか、和哉が訝しげな眼差しで見つめていた。 「あ、いや…大丈夫だ。問題ない」 「…蓮さんがそんなに悩むってことは、どうせ楓絡みなんでしょ?今度は、なにを悩んでるんですか。さっさと話して解決して、仕事に戻ってもらいたいんですが」 笑顔で誤魔化そうとしたのに、さすがに長い付き合いだけあって誤魔化されるどころか、ズバリと言い当てられてしまって。 俺はまた溜め息を吐いて、白旗を上げた。 「…なぁ、おまえさ。今日の夜は春海となにして過ごす?」 仕方なく訊ねると、和哉は見たこともないくらいきょとんとした顔で、俺を凝視する。 「………は?」 「だから…クリスマスイブは、二人でなにして過ごすのかって」 「なにって、別に。なにもしませんけど?そもそも、なんで俺が春となんかすることに?別に恋人でもないし…まぁケーキくらいは食べますかねぇ。なんかもう予約してたみたいだし」 「…そうか」 「…もしかして蓮さん、今日はなにも予定立ててないんですか?」 またも核心を突かれて、思わず口籠った。 「…仕方ないだろ。忙しかったんだよ」 「確かに、ここんとこバタバタでしたしね…しょうがないんじゃないですか?別にクリスマスになにもしなくったって、楓が文句言うことないでしょ」 「そうだけど…そうじゃないんだよ」 そんなのわかってる 楓はきっとなにも言わない だからこそ 俺があの約束を守らなきゃいけないのに… なんて、今さら口にすることも出来ず。 黙り込んでしまった俺を、和哉は横目でチラリと見て。 おもむろにデスクの電話を取り、どこかへと電話をかける。 「あ、副支配人の成松です。今日の当日販売のホールケーキ、まだ残ってます?…あと三つ?じゃあ一つ確保してください。総支配人の分で。よろしくお願いします」 「おいっ…」 止める間もなく素早く話を終えて受話器を置くと、俺に向かってにっこりと笑った。 この笑ってるのに目が笑ってない笑顔を向けられると、いつも反射的に口をつぐんでしまう。 「たまにはいいでしょ、職権乱用。こんなときに使わないで、いつ使うんですか」 有無を言わさぬ圧を感じさせる口調で、そう言って。 今度は自分のスマホを取り出し、なにかを打ち込み始めた。 「それから…」 何度か画面をタップすると、俺に向かって画面を見せる。 そこに表示されていたのは、白をベースにした大きなクリスマスツリー。 「これ、近くの商業施設のクリスマスツリーです。この辺じゃ一番大きくて派手みたいだから、仕事帰りに二人で寄ってみてはいかがですか?今日は楓にも一時間長く弾いてもらってるから、蓮さんたちが帰る頃にはだいぶ人も少なくなってると思いますよ?」 そう言って。 今度は本当に柔らかく笑った。 「…ああ。ありがとう」 「どういたしまして。素敵な夜を、過ごしてくださいね」

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