495 / 566
番外編 Robin(ロビン)4 side蓮
楓の仕事が終わった時間を見計らって部屋をノックすると、私服にもう着替え終わった楓がドアを開けて微笑んだ。
「蓮くん、お疲れさま。仕事終わったの?」
「ああ。もう帰れるか?」
「うん。ちょっと待ってて」
軽い足取りで一度奥へ戻り、すぐにトートバッグを肩にかけて現れると。
「あ!ケーキだぁ」
俺が左手に持った箱に目敏く気付き、ぱあっと顔を輝かせる。
「それ、パティスリーササキの!?」
「そう」
「やった!俺、佐々木さんの作るケーキ、大好き!蓮くん、ありがとう!」
「あ、あぁ、うん。家でゆっくり食べよう」
「うん!」
屈託のない笑顔に、ちょっとだけバツの悪さを感じつつ。
「じゃあ、帰ろうか」
手を差し出すと、美しい音を奏でる美しい手が躊躇いもなく重ねられた。
「うん」
そのまま手を繋いで、従業員出入口へと向かう。
「今日は、歩いて帰ろうか」
「いいの?」
「ああ」
頷くと、楓はまた嬉しそうに微笑む。
ホテルを出ると、身を切るような冷たい風が吹き抜けて。
「さむっ…」
楓が小さく叫んだから、繋いだ手を慌ててポケットに突っ込んだ。
しまった…
いつも車だから手袋もマフラーも持ってないんだった
「大丈夫か?やっぱり車で帰ろうか?」
「ううん、大丈夫。こうしてれば暖かいから」
思わずホテルに踵を返そうとした俺を、楓が繋いだ手にぎゅっと力を込めて引き留める。
「それに俺、ここの並木道ずっと歩いてみたかったんだよね。車の中から、すごく綺麗だなって思って見てたから」
そうして、まっすぐに伸びる道路の脇に植えられた、シャンパンゴールドの電飾で彩られた街路樹を見上げた。
とても、楽しそうに。
「…そうか」
シャンパンゴールドの光を反射して、琥珀色に輝く瞳の煌めきに目を奪われる。
「いこ?蓮くん」
「ああ」
淡い電飾の光のなかで微笑む楓は、息を飲む程に美しくて。
目が離せない。
「綺麗だねぇ…」
「そうだな」
「…どこ見てるの?」
「楓」
「ん、もうっ!俺じゃなくて、イルミネーション見てよ!」
「いや、イルミネーションより楓の方が数万倍綺麗だし」
「っ…そういうこと、言わなくていいからっ!」
歩きながら楓の顔ばっかり見てたら、ようやく視線に気が付いたらしく、怒ってプイッとそっぽを向かれてしまう。
でも、その拍子に露になった首は、夜目でもわかるほどに真っ赤で。
やっぱ、首元寒そうだな…
少し遅れるけど、クリスマスプレゼントで今度マフラーと手袋でも買ってやるか
そんなことを思いながら、俺は視線をライトアップされた並木道へと向けた。
「…綺麗だな…」
この通りはホテルが建つ前から毎年クリスマスの時期はライトアップされていて
だから俺も何度となく見ていたはずなのに
今年はいつもよりもずっと
輝いて見える
それはきっと…
「うん…綺麗だね、蓮くん…」
誰よりも愛おしい人が
傍にいるから
ともだちにシェアしよう!