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番外編 Robin(ロビン)5 side蓮
「うわぁっ…綺麗っ…」
和哉に教えてもらったクリスマスツリーへ連れていくと、楓はますます目を輝かせた。
和哉が言っていたように、もう閉店間際だからかツリーの回りには疎らにしか人はいなくて。
俺と楓はツリーのすぐ傍までいって、5メートル近くあるんじゃないかってくらい大きなそれを見上げる。
まるで雪が積もったように白いツリーには、ゴールドや赤、緑のクリスマスカラーの飾りがぶら下がっていて。
シンプルだけど、すごく可愛らしいそれを、楓は食い入るように見つめていた。
そのキラキラ光るツリーと、それ以上に煌めきを放つ楓の横顔を交互に見ていると。
「やっと…ちゃんとクリスマスがきた…」
かろうじて俺に届くような小さな声で、楓が呟く。
「え?」
思わず聞き返すと、ゆっくりと俺の方を向いて。
「だって、蓮くんが言ってたでしょ?クリスマスは、大好きな人と一緒に過ごす、幸せな日だって」
ふわりと微笑みながら、そう口にした。
「…覚えてたのか」
「当たり前じゃん。忘れるわけ、ないでしょ」
幼い頃の戯言をしっかり覚えられてたことが恥ずかしくて、つい視線を泳がせると。
クスクスと楽しそうに笑いながら、ぴったりと俺の腕に身体を寄せてくる。
「あの後、春くんにそれ言ったら、びっくりされた」
「…あぁ」
「んで、クリスマスはみんなでパーティして、サンタさんがプレゼント持ってくる日だよって教えてくれた」
「あー…そうだよな。ごめん、変なこと教えて」
幼い頃
俺の家にはサンタが来たことはなかったし
みんなでパーティをしたこともない
だからついあんなことを口走ってしまったけど
普通はパーティしてサンタが来るもんだよな…
「…変なことじゃ、ないよ」
過去の自分が放った的はずれな言葉に、今さらながらに後悔が沸き上がってきて。
「え…?」
羞恥にかっと熱くなった俺の頬に、楓が触れるだけのキスをした。
「俺は、蓮くんの言葉の方が、好きだよ」
そうして、あの日と同じ天使の微笑みを浮かべる。
「パーティもサンタもなくても。大好きな人が傍にいる。それだけで、俺にとってクリスマスはすごく幸せな日になるから」
その笑顔の中に、ほんの少しだけ滲む切なさ。
「…ずっと、諦めてた。俺のところには、きっと一生サンタなんて来ない。一生、一緒に過ごす人もいない。だから、みんな幸せそうにしてるクリスマスがずっと嫌いだった。でも…今年は違う。蓮くんが傍にいる。二人で、こうやってクリスマスツリーを見ることが出来る。こんな幸せなクリスマス、俺、生まれて初めてだよ」
笑みの形に細められた瞳が、潤んで。
ポロリと、宝石のような涙が一粒、零れ落ちた。
「楓…」
その滴を指先で掬って。
「もう二度と、離さない」
楓をそっと抱き締める。
「…うん」
「来年も再来年も…これから先は、幸せなクリスマスだよ」
「うん…ありがとう、蓮くん…」
腕の中で、楓は本当に幸せそうに微笑んで。
もう一粒だけ、涙を溢した。
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