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番外編 鷦鷯(ミソサザイ)1 side和哉
注)鳳凰19の最後からの和哉視点のお話です
「おめでとう!」
「おめでとうございますっ!」
「末永くお幸せに!」
みんなの祝福を浴びてバージンロードをゆっくりと歩く蓮さんと楓の姿に、なんだか胸がじんと熱くなった気がして。
そんな自分に、俺は一人安堵の息を吐いた。
ああ…
よかったな…
本当によかった……
心の中でそっと呟くと、胸の熱さが喉元まで迫り上がってきて。
鼻の奥がつんとした時、不意に春の間抜けな顔が目の前に現れる。
「あれ…?もしかして、かず、泣きそう?」
相変わらず無神経な発言に、込み上げかけた涙は一瞬で引っ込んで。
思わず手を上げると、その軽そうな頭をバシンと叩いた。
「痛って!」
「バーカ」
「ひっどいなぁ~」
睨んでも、ヘラヘラと笑うだけで、挙げ句俺の肩を抱き寄せたりして。
でも、俺を包み込んだ体温に、なぜか安心する自分がいる。
…絶対に言ってやんないけど
でも…
本当は
今日おまえが横にいてくれてよかったって思ってる
これも死んでも言わないけどね
「でもさぁ…やっぱ、悔しいけど…めちゃめちゃカッコいいよな、あいつ」
俺の肩を抱いたまま、投げた視線の先には。
真っ白なタキシードに身を包み、誰よりも幸せそうに微笑む蓮さんと、その隣で同じように誰よりも幸せそうな微笑みを浮かべる楓の姿。
それを真っ直ぐに見つめる春の瞳には、隠しきれない寂しさが揺れて。
「おまえ、本物のバカ?」
俺は、そっと春から視線を外すと、再び蓮さんを見つめた。
「蓮さんは、いつだって誰よりもカッコいいんだよ。当たり前だろ」
今の蓮さんは
俺が憧れ続けたあの教会の大天使ミカエルではないけれど
それでもやっぱり
俺にとっては誰よりも特別な人
たとえ想いの形が変わっても
「…なんだよ、それ…」
途端に耳元で響く、拗ねたような声。
「なんだよって、春が言ったんだろ」
「そこはさぁ、冗談でも春も負けないくらいカッコいいよ、でしょ?」
「はぁ?なんでそんなこと…そんなの」
恋人じゃあるまいし
続けるつもりの言葉は、思わず飲み込んだ。
「ん?」
「…なんでもない。それよりあれ、混じんなくていいの?」
不思議そうに覗き込んできた春の意識を逸らそうと、チャペルの入口付近で二人を取り囲んで始まった撮影大会を指差すと。
「行く行く!かずも、行こ!」
ぱ、と俺の肩を抱いた手を離し、その手でぎゅっと俺の手を握って、その人混みへ向かって駆け出す。
「ちょっ…手ぇ!」
振り解こうとしたけど、その細い体躯に似合わずに案外バカ力の春の手を逃れるのは容易なことではなくて。
結局、俺は春に手を引かれるままに、蓮さんと楓の前に連れていかれた。
「…和哉」
俺に向けられた蓮さんの眼差しが、すっと繋がれた手に落ちて。
それから意味ありげに、その切れ長の涼しげな瞳が細められる。
「今日はありがとう。こんな素晴らしいサプライズを用意してくれて…心から、感謝する」
おそらく一瞬だけ動揺を表してしまった俺には、だけど気が付かなかった振りをして。
蓮さんはとても幸せそうな微笑みで、俺に頭を下げた。
「…いえ。おめでとうございます。末長くお幸せに」
「ああ」
「写真!俺たちとも撮ってよ!」
しんみりとした空気は、春の元気な声に遮られて。
自分のスマホを近くのスタッフに預けている春の姿を横目に見ながら、俺はあえて純白のウェディングドレスに包まれた楓の隣に立つ。
「それじゃ、撮りますよー。はい、ポーズ!」
シャッターが切られる、その瞬間。
「…和哉。本当にありがとね」
楓の小さな声が、耳に届いて。
学生時代以来に4人で並んで撮った写真の中の俺は
自分でも驚くくらいの
ちゃんとした笑顔だった
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