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番外編 鷦鷯(ミソサザイ)2 side和哉

「いや~、ほんっといい結婚式だったよね!俺たち、良い仕事したよなぁ~。かずも、そう思うでしょ?」 後片付けを終え。 並んでホテルを出て、俺のマンションへ向かう帰り道。 春は清々しい顔で、そう言って笑った。 「…まぁね」 だけどその頬には、ほんの少しの隠しきれない寂しさが浮かんでいるように俺には見えて。 「…あのさ、春…」 おまえは本当にこれで良かったの? 「ん?なに?」 「…いや。やっぱなんでもない」 言いかけた言葉を、俺は飲み込んだ。 それは今、俺の口から聞いてはいけない気がしたから。 そのまま、なんとなく気まずい雰囲気の中でとぼとぼと歩いていると。 「…じゃ、今日は俺、自分のマンション帰るわ」 そう言って、地下鉄の入口の前で突然春が足を止める。 「えっ…」 その思ってもいなかった行動に、思わず狼狽えた声を出してしまった。 「なんで…?」 「なんでって…かず、今日は俺といたい気分じゃないでしょ?」 どこか寂しそうな笑顔に、心の奥がズキンと痛みを訴える。 その痛みを関知した瞬間、怒りなのか悲しみなのか、自分でも訳のわからない感情が心の底から溢れてきた。 「…なんでだよ…」 「え?」 「なんで今日に限って、そんなこと言うんだよ。いつもいつも、俺の許可なく図々しく俺んちに押し掛けてくるくせに!」 「え?え?かず?急にどした?なんで怒ってんの?」 「バカ!知るか!」 その感情に押し流されるまま、気が付いたら春の手首を力任せに掴んで、歩き出していた。 「かず!?ちょっと痛いって!」 「知るか!」 競歩並の足取りで、春を引きずるようにして自分のマンションへと向かう。 最初はぶつぶつと文句を言っていた春は、家に近づく頃にはなんだか複雑そうな顔で俺の横に並んで歩いていた。 「…本当にいいの?」 そうして、エントランスへあと数メートルというところまで来て、やけに真剣な顔で訊ねてくる。 「なにがだよ」 「だから…」 春は一瞬困ったように眉を下げ、まるで自分を落ち着けるかのような長い息をほーっと吐き出して。 「俺さ…もう…傷の舐め合いは、出来ないよ?」 そう言った。 その名の通りの穏やかな春の海のような柔らかい微笑みと、どこか諦めたような声音で。 「…なんだよ、それ…」 思わず低く唸るような声が出てしまって。 咄嗟に、手首を掴んだ指に力が入る。 「痛っ…」 「舐め合う傷なんて…もうとっくにないし」 一瞬痛みに歪んだ春の瞳は、被せた俺の言葉に大きく見開かれた。 「えっ…」 「ほら、さっさと行くぞ。俺、腹が減ってんだよ」 突き刺さるような視線から逃れるように顔を背け、エントランスを潜る。 春は、それ以上はなにも聞かずに後を黙ってついてきた。

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