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番外編 鷦鷯(ミソサザイ)3 side和哉

部屋に戻り、買い置きしてあったカップ麺を向かい合って啜る間、春はなにか言いたげにちらちらと俺を見ながらも、結局なにも言わなかった。 「あー、腹いっぱい」 その視線を敢えて無視して食べ終わり、ダイニングテーブルからソファに移動して腹を擦ってると。 俺の分のゴミまでキッチンに片付けて戻ってきた春が、遠慮がちに俺の隣に浅く腰掛ける。 「あ、あのさ…かず…」 「ん?」 「さっきのって…」 そう、言いかけて。 でも言葉を飲み込むと、しばらくの間なにかを考え込むように宙を見つめ。 突然、ブンブンと勢いよく頭を振りだした。 「ん?どうした?楓がいよいよ結婚しちゃって、頭おかしくなったのか?」 「違うし!」 いつものように揶揄う言葉を口に乗せると、思ってもみなかった強い否定の言葉が返ってきて。 その尖った空気に気圧されて、思わず口をつぐむ。 春はなぜか眉間に皺を寄せながら、怖いくらい真剣な眼差しで俺を見つめて。 おもむろに大きく息を吸い込むと、細く長くそれを吐き出した。 「…あのさ、かず…」 そうして、絞り出すように発した声は、俺にもはっきり伝わるくらいの緊張感に満ちたもので。 反射的に身構えた瞬間。 「俺…かずのことが、好きだよ」 春が、逃れることを許さない真っ直ぐな眼差しで、そう告げた。 「っ…」 一瞬 頭の中が真っ白になった 「かずが、好き。世界中の、誰よりも。だから、これからもずっと一緒にいたい。俺と、付き合ってください」 追い討ちをかけるように、春が必死に言葉を紡ぐ。 追い詰めるように、曇りのない真っ直ぐな眼差しで俺を見つめる。 …もう、逃げられない 頭の中で、思考がはっきりとした言葉に変わった。 そうして初めて、わかった。 自分がとっくに春の気持ちに気付いていたことに。 そして、もうひとつ…。 「か、かずはさっ!俺がまだ楓のこと好きって思ってたかもしれないけど…そんなの、もうとっくの昔の話だし!今は、かずだけ!かずと一緒にいるのが楽しいし、これから先も、ずっとこうやっていられたらいいなって思うし!だからっ…だからさっ…」 「知ってたよ」 俺が黙ってることに焦れたのか、焦って早口で喋りまくろうとする春を遮ると。 「へっ…?」 口をポカンと開いたマヌケな顔で、言葉を止める。 「だから、とっくに知ってたっての。おまえが俺を好きなこと」 「そ、そう、なの…?」 「それに、勘違いしてるのは俺じゃなくておまえだろ?」 「へ?」 「俺も、もうずいぶん前に蓮さんへの気持ちなんて終わってるし。今は…」 「い、今、は…?」 わざとぼかすように言葉を切ると、春はその先を期待するようにゴクッと喉を鳴らすから。 一瞬、天の邪鬼な俺が顔を出しそうになったけど。 まぁ、たまには素直になってみてもいいか たまには、ね 「おまえのことが好きだよ、春」

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