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番外編 蜂鳥(ハチドリ)2 side楓
櫂と凪を寝かしつけてリビングへ戻ると、ちょうど蓮くんがお風呂から上がってきたのに鉢合わせた。
「お、今日は二人ともすんなり寝たんだ?」
「うん。今日は陽射しが暖かかったから、たくさんお散歩して疲れたのかな?いつもより寝付きがよかったかも」
「そっか」
俺の言葉に優しい笑顔で頷いて、冷蔵庫からビールを取り出すと、ソファに座って俺を手招きする。
隣へ座ると、すぐに腰を強く引き寄せられて。
密着した蓮くんからはボディーソープの匂いに混じって、ほんの少しフェロモンの香りがして。
ドキンと心臓が波打った。
「お疲れさま。いつもありがとうな」
蓮くんが定期的にくれる労いの言葉をくれて。
それと同時に優しいキスが降りてくる。
それだけで、慣れない育児で疲弊してた身体が軽くなった気がした。
「ううん…蓮くんも、いつもお仕事お疲れ様」
「うん。ありがとう」
そっとその大きな胸に身体を預けると、包み込むように蓮くんの手が俺の頭を撫でる。
「いつも頑張ってくれてる楓に、今日はプレゼントがあるんだ」
「え?」
満たされた気持ちでうっとりと目を閉じて優しいフェロモンを感じていると、不意に蓮くんがそう言って。
ソファとクッションの隙間から、なにかを取り出して俺の手の上に置いた。
「ハッピーバレンタイン、楓」
優しい声と共に贈られたのは、俺でも知ってる超有名なチョコレートショップの包み紙の箱。
「え、えっ?なんで!?」
「なんでって、バレンタインって愛を伝える日だろ?日本では女の人が男に送るってのが主流だけど、愛を伝えるのに男も女もないからな。愛してるよ、楓」
「蓮くん…」
なんのてらいもなく、にっこりと微笑んだ蓮くんの言葉に、じんわりと胸が熱くなる。
愛を伝えるのに男も女も関係ない、か…
「…ん?どうした?」
「ちょ、ちょっと待ってて」
俺は立ち上がって、急いでキッチンへと向かい、まだスーパーで買ったアレコレを入れっぱなしだったエコバッグから、あのピンクの可愛い包みを取り出す。
それを胸に抱えて、小走りで蓮くんの元へと戻った。
「あの…俺も…ハッピーバレンタイン…」
それを差し出そうとした時、不意に蓮くんが買ってきてくれた高級チョコとの差が目についちゃって。
蓮くんが受けとる寸前で、思わず引っ込めてしまう。
「え?なんで?俺にくれるんじゃないの?」
「ご、ごめんっ!俺、バレンタインとか全然考えてなくてっ…蓮くんみたいに、ちゃんとしたとこで買ったんじゃないし、そもそも蓮くんチョコとか食べないし、だから、チョコじゃないものがいいかと思ったんだけど、でもやっぱバレンタインだし…」
「ありがとう」
焦って引っ込めてしまった言い訳を口にしようとした俺の腕を、蓮くんがそっと握って止めた。
「え…?」
「これ買うとき、俺のこといっぱい考えてくれたんだろ?それだけで、嬉しいよ」
そう言って。
チョコよりももっと甘い顔で、そっと俺の手から小さな箱を引き取っていく。
「…いつも、考えてるよ。俺の頭の中、いつも蓮くんのことでいっぱいだもん」
その甘い表情に溶かされるように、素直にそう伝えると。
蓮くんは本当に幸せそうに微笑んで、俺を抱き締めた。
「俺と同じだ。俺も、いつも楓のことばっかり考えてる。俺の世界は、楓でいっぱいだからな」
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