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番外編 蜂鳥(ハチドリ)3 side楓
「めっちゃ美味しい!」
蓮くんから貰ったつやつやピカピカの美味しそうなチョコレートを口に入れると、とっても上品な甘さが口いっぱいに広がった。
「そう?よかった」
自然と顔が綻んだ俺を、蓮くんも嬉しそうに見つめてる。
俺が渡した箱を、手の中に抱えて。
「…やっぱ、チョコいらなかった?」
いつまで経っても包みを開ける様子のないことに、ちょっぴり落ち込みながらそう訊ねると。
蓮くんはハッとしたように目を見開いて、慌ててブンブンと勢いよく首を横に振った。
「違う違うっ!そうじゃなくてっ!その…なんか勿体なくてさ」
「え?」
「だって、楓からバレンタインに貰うのって初めてだろ?そういうさ、普通の恋人なら当たり前にあるイベントを、こうして当たり前にやれることがなんか嬉しくてさ…楓が初めて俺のために用意してくれたチョコ、食べて消えちゃうのが勿体ない気がして」
しみじみと語る蓮くんは、本当に幸せを噛み締めてるようで。
更に自己嫌悪が募る。
こんなに大切に思ってくれるんだったら
もっとちゃんと選べばよかった
ダメだなぁ、俺…
「でも、折角だもんな。食べるよ」
そんな俺の心の内に気付いてるのか気付いてないのか、蓮くんはゆっくりと丁寧にピンクの包み紙を開け始めた。
中には、ピンクと白の可愛らしい小さなチョコが2つずつ入ってた。
「いただきます」
律儀にそう言って、ピンクの粒を口に入れる。
モグモグと咀嚼するのを固唾を飲んで見守ってると、視線に気づいたのか俺を見てニヤリと笑った。
「甘い」
「ええっ!?」
やっぱ、甘いものダメだった!?
「楓も、味見してみる?」
来年はやっぱワインにしよう、なんて頭の中で考えてると、ぐいっと頭を引き寄せられて。
蓮くんのすごく端正な顔が目の前にきたと思った瞬間、熱い唇が俺のそれに重なった。
舌先で唇をつつかれて、反射的に少しだけ開くと。
熱い舌とともに、どろどろに溶けたチョコが口の中に入ってくる。
それを擦り付けるように俺の舌に乗せられると、あまーいストロベリーチョコの味が口の中を支配した。
「…どう?」
「…甘い」
「だろ?」
蓮くんはなぜか勝ち誇ったように、またニヤリと笑って。
「じゃあ、今度はこっちの味見」
白のチョコを口に入れ、今度は咀嚼せずに俺の目をじっと見つめる。
おずおずと口を開くと、また唇が重なって。
コロン、とチョコが口の中に入ってきた。
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