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番外編 朱嘴鸛(シュバシコウ)4 side蓮
「ふぎゃぁぁぁーーーーー!」
「ふにゃぁぁぁーーーーー!」
「だからっ!ママのとこには今行けないからっ!」
いくら宥めても、ベッドルームに続くドアにかじりついて大声で泣き続ける櫂と凪に手を焼いてると、ようやく待っていたチャイムの音が聞こえた。
「すみません、遅くなって…って、あらぁ大変!」
急いで玄関ドアを開けると、そこには小夜さんと、世絆を抱いた志摩くんの姿。
「志摩くんまで…申し訳ない」
「いえいえ、こういう時はお互い様ですから。それにしても、双子ちゃんたち元気ですね。あ、お邪魔します」
家中に響き渡る双子の泣き声に、志摩くんと小夜さんが苦笑しながら入ってくる。
「すまない…どうやっても、泣き止まなくて…抱っこしようとしても拒否られるし…普段はあんなに抱っこ抱っこって俺に纏わりついてくるのに…」
二人が来てくれて少し気が緩んでしまったのか、つい弱音を吐いてしまうと。
志摩くんはふんわりと柔らかく微笑んだ。
「きっと、ママの異変に気が付いてるんでしょうね」
「あんな状態の二人を、預かってもらって本当にいいんだろうか」
「ご心配なく。小夜さんもいますし、大丈夫ですから」
そうして、俺の言葉にしっかりと頷く姿に、驚かされる。
俺の志摩くんの印象は
どこかまだ幼さが抜けきれていない
少し頼りない少年だったけれど
いつの間にかすっかりと母親の強さを身に付けている
親になるって
すごいことなんだな…
「櫂~、僕が抱っこしてあげる。おいで?」
感心していると、世絆を小夜さんに預けた志摩くんが櫂へと両手を広げて。
櫂はぐずぐず泣きながら、しばらく志摩くんをじっと見ていたけど、やがて高速ハイハイで志摩くんへと近付き、その小さな身体でぎゅっと彼に抱きついた。
「えっっっ!?」
なんで!?
俺がいくら宥めても見向きもしなかったのに!?
「…それは…双子ちゃんたちわかってるのかも。しゅう…楓さんが呼んでるのは、蓮さんだけだってことが」
「え…?」
「とにかく、櫂くんも凪くんも大丈夫そうですから、お預かりします。蓮さんは早く楓さんの側にいってあげてください」
その言葉の意味を訊ねようとした俺を遮るように、志摩くんがふわりと微笑んで。
櫂を右腕で抱え直すと、まだ寝室のドアにしがみついている凪を左腕でひょいと抱き上げる。
「龍さんが食料買い出しして、後で下の宅配ボックスに入れておくって言ってました。入れたらメールするみたいなんで、柊さんが落ち着いた頃に取りにいってもらえますか?」
その小さくて可愛らしい佇まいからはちょっと想像出来ない力強さに呆気に取られていると、志摩くんは玄関へ向かいながらそう言った。
「え、龍が?あいつ、仕事忙しいんじゃないのか?」
「今日はたまたまお休みで。なんか、妙に張り切ってましたよ?双子ちゃんたちのオムツ換えもお風呂も、自分に任せとけって」
「ええっ!?あいつが、そんなことを!?」
「はい。お兄さんたちの役に立てること、嬉しいのかもしれないですね」
クスクスと軽やかに笑う姿からは、龍をも包み込むような母性さえ感じられる。
それはまるで
蛹が蝶に羽化したような鮮やかな変化にも似て
「…そうか。ありがとう。櫂と凪のこと、よろしくお願いします」
大きな安心感を覚えながら、俺は志摩くんに頭を下げた。
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