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番外編 鴎(かもめ)1 side龍

「なぁ、志摩。世絆ももうすぐ二歳になるし、そろそろ俺たちの結婚式をやろうかと思うんだけど、どうだ?」 世絆とブロックで遊んでいる小柄な背中に声を掛けると。 バッと勢いよく振り向いて、その大きな瞳をまん丸にした。 その顔 ヤバいくらい可愛いな… 「え、え…えぇっ?結婚式っ!?」 ついつい緩んでしまった顔を咄嗟に片手で隠した俺に、駆け寄り。 「え、ほ、ホントに…?」 大きな瞳をキラキラと輝かせながら、俺を見つめる。 その様子だけで、志摩がめちゃくちゃ喜んでるのは十分伝わってきたけど。 可愛すぎてついつい揶揄いたくなるのは、俺の悪い癖で…。 「なに?嫌だった?」 そんな意地悪な台詞を口に乗せてしまうと、ぶんぶんと激しく首を横に振って、まるで母犬に縋る子犬みたいな目をした。 その顔もめちゃくちゃ可愛いんだが… 「そ、そんなことないっ!でも、もうやらないのかと思ってたから、びっくりして…」 「約束しただろ?落ち着いたら、って」 「覚えてて、くれたんだ…。ありがとう、龍さん」 ぱっと花が咲いたような笑顔でお礼を言われると、心の奥がじくりと痛む。 覚えてた… わけじゃない 実を言えば忙しさにかまけて、すっかり忘れてて… 先週、小夜さんに窘められてしまった 志摩が時々、兄さんと楓の結婚式の写真を眺めては、羨ましそうにしてるって 「ずいぶん待たせてしまったからな。式場も、内容も、志摩の好きにするといい」 うっかり忘れてた罪滅ぼしの気持ちで、そう言うと。 またびっくりしたように瞳を丸くする。 「え…いいの…?しきたりとか、あるんじゃないの?」 「そんなもの、今はもうないよ。それに、この結婚式の主役は志摩なんだから、志摩がやりたいようにすればいいんだよ。…あ、そうだ!ハワイで挙式とか、どうだ?海外、行ったことないって言ってただろ」 少し早口で捲し立てると、嬉しそうにふわりと笑って。 でも、なぜか困ったように眉を下げた。 「ハワイも、いつかは行ってみたいけど…でももし、本当に僕が好きなようにしていいなら…僕、蓮さんのホテルで結婚式やりたい。あのホテルのチャペル、すっごく素敵だったし…あそこで、柊さんみたいに大切な人たちに祝福してもらって、幸せになりたいなってずっと思ってたから」 そう一息で話してから、少し躊躇するような素振りを見せて。 「それで…これは本当に僕のわがままなんだけど…結婚式の時に、柊さんにピアノ弾いてもらえたらなって…」 小さな声で、そう言った。 「志摩、それは…」 「あ、でも!これはホント、僕のただの勝手な願望だから!聞かなかったことにして!僕は、龍さんと結婚式できるだけで、それだけで満足だからっ!」 俺が思わず口を開くと、慌てたように大きな声で遮って、にっこりと笑顔を作る。 その姿が愛おしくて。 志摩の望むことなら、叶えてやりたくて。 「…よし、わかった」 「え?」 「式は、兄さんのホテルで決まりな。楓のピアノのことも、兄さんに俺から頼んでみるよ」 ついつい、そんな約束を口走ってしまった。

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