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番外編 鴎(かもめ)5 side楓

「お帰り…って、あれ?どうしたの?」 玄関に行くと、靴を脱いでる蓮くんの後ろに春くんと和哉の姿を見つけて、驚いた。 「双子たちの顔見たくって、来ちゃった!」 「ええっ!?先に連絡くれれば、夕飯用意しといたのに…」 「いいのいいの。急に来たくなっちゃったから。夕飯、自分らの分は買ってきたし」 春くんが手に持ったビニール袋を俺に翳してみせてると、後ろから2つの足音が聞こえてきて。 「はーく!かじゅ!」 「ぱー!ぱー!」 櫂が、俺の脇をすり抜け、蓮くんの脇もすり抜けて、春くんに一直線に駆け寄った。 遅れて、凪も櫂と同じように春くんの元へ。 「おー!二人とも元気そうだなぁ。春くん、嬉しいぞ~」 春くんは慌ててビニールを和哉に押し付けると、二人を抱き上げて頬ずりして。 二人は楽しそうに声をあげた。 「…相変わらず、春海のこと大好きだな、あいつら」 蓮くんは、ちょっと面白くなさそう。 毎回春くんが来るたびに繰り広げられる光景に、苦笑いを漏らしつつ。 そっと蓮くんの手を握ると、ぎゅっと握り返してきて。 不機嫌な顔は引っ込めて、いつもの優しい顔で微笑んでくれた。 「どうぞ上がって、二人とも」 和哉の溜め息は聞かなかったことにして促すと。 「お邪魔しまーす!」 「…お邪魔します」 春くんが双子を抱っこしたまま、靴を脱ぎ捨てて。 和哉が春くんの靴をきちんと揃え、春くんの荷物も抱えてそれに続く。 それも、すっかりお馴染みの光景だ。 「楓、これお土産」 凪と櫂を春くんに任せて、キッチンへ入ろうとした俺に、和哉がケーキの箱を差し出してきた。 「うわ!パティスリーササキのケーキじゃん!久しぶり!」 「あなた、好きだったでしょ?」 「うん!覚えててくれたの?」 「まぁ…」 「ありがとう。嬉しい」 照れ臭そうに目を逸らす和哉が可愛いなぁと思いつつ、箱を開けると、中には色鮮やかなケーキが4つ。 「それ、苺とチョコが楓用。蓮さんは、こっち」 そう言って、今度はウイスキーの瓶を俺に渡す。 「いろいろありがと、和哉」 「いえ…夕飯の準備、俺も手伝いますよ。なにをすればいいですか?」 「ええっ…悪いからいいよ!和哉たちの分は買ってきてるんでしょ?」 「そうなんですけど、向こうにいてもやること無さそうなんで」 チラリとリビングに向けられた視線を追いかけると、春くんと櫂はおもちゃで遊んでて。 凪はいつの間にか蓮くんの膝の上に座って、テレビを見てた。 「…だね。じゃ、フライパンの火を着けて、このタレを肉に絡めてくれる?」 「了解です」 ほのぼのとしたリビングの空気を感じながら、二人で並んで料理の仕上げにかかる。 「ふふっ…うちの子どもたち、春くんのこと本当に好きだよね」 「脳みそのレベルが一緒だからじゃないですか?」 「またそんなこと言って…和哉のことだって、大好きだよ?」 「…そうですか」 「那智さんも誉さんも、伊織さんも亮一さんも紫音先生のことも大好きで…みんなすごく可愛がってくれるから。凪なんて、みんな同じように『ぱー』って呼ぶの。もしかして、全員パパだと思ってるんじゃないかって、蓮くんちょっとムッとしてたんたけど」 「それは…可能性ありですね」 俺の言葉にくすっと笑った和哉は、すごく柔らかい表情をしてて。 あんまり見たことのない顔に少し驚きつつ、でもなんだか心がふんわりと温かくなって。 「…なんで笑ってるんですか?」 「なんでもない」 「…そうですか」 痛いくらいの視線を感じつつ、ついつい頬が緩んだ。

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