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番外編 鴎(かもめ)9 side楓

「え…?」 わかってるって… 「いや、そんなわけないよ。だって、まだ一歳になったばっかりだよ?」 「でも…あいつたぶん、αだろうしなぁ…」 「え…」 「さすがに考えてるわけじゃないだろうけど、感覚的な部分でいろんなことがわかってる気がするんだよな」 「そんなこと…」 蓮くんの言葉を否定しようとしたけど、それは俺もなんとなく感じていたことで。 その先の言葉を、思わず飲み込んだ。 双子なのに櫂は凪に比べて歩くのも話すのもずっと早い それに赤ちゃんなのに空気を読むっていうか… 今は静かにしてて欲しいって時に泣いたりぐずったりすることがない 今までは半信半疑だったけど… 「…櫂がすごく懐いてる、保育所の菜摘先生って…Ωだよね…」 「そうだな」 「櫂って、誰にだって愛想いいけど…特に志摩と紫音先生が大好きだよね…」 「…そうだな」 そこまで材料が揃ってたら、もう否定することは出来ない気がした。 「…αって、そういうもの?そんな小さな頃からΩのこと、わかるの?蓮くんもそうだった?」 「うーん…さすがにそんな子どもの頃の記憶はないし、その頃って近くにΩがいたことないから、はっきりとはわからないけど…でも、小学校に上がる前くらいから、街でいい匂いの人がいるって感じたことはあるよ。今思えば、Ωの人とすれ違ったんだろうな」 「そう、なんだ…」 蓮くんの言葉に、モヤっとしたものが広がった。 って俺、こんなときになに昔の話にモヤってんの… 「まぁ、αがみんなそうってわけじゃないと思うけど。龍なんかは、高校生くらいまでそういうのあんまり感じないみたいだったし、個人差が大きい部分だろうけど…櫂はなんとなく間違いない気がするな、俺は」 慌ててモヤモヤを頭から追い出してると、蓮くんがそう断言して。 咄嗟に頭に浮かんだのは凪のこと。 「じゃあ…じゃあさ…櫂がαなら…凪は…」 凪だって決して発達が遅いわけじゃない でも αとΩのカップルから生まれるのは ほぼ間違いなくαかΩで だとしたら… 「楓」 思わずぎゅっと両手を握り締めると、いつの間にか隣に移動してきた蓮くんが、俺の手を自分の手で包み込んだ。 「約束しただろ?凪がたとえΩでも、俺たちで守っていくって」 「…蓮くん…」 「大丈夫。伊織が草案を練ってる新しい雇用機会均等法も、来年には国会審議にまで持っていけそうだし。春海たちは効果の高い抑制剤を必死に研究してくれてる。亮一や紫音先生は、Ωの為の医療施設を増やすために全国の病院に働きかけてくれてる。たくさんの人達が、Ωだけじゃなく、みんなが暮らしやすい世の中に変えようと努力してる。だから、あの子達が大きくなる頃にはきっと、今よりもっと誰もが自由に生きられる世界になってる。俺は、そう信じてる」 強い意思を湛えた眼差しと共に告げられた言葉は、まるで言霊のようで。 蓮くんがそう言うなら、きっとそんな世界が待ってるんじゃないかって気がしてくる。 Ωだからって 誰に蔑まれることもない Ωだからって 自分を否定する必要もない そんな世界が 「あの子らがαでもΩでも、凪は凪、櫂は櫂っていう一人の人間で。あの子達がどんな人生を歩んだとしても、あの子達らしく生きていけるようにサポートする。それが、俺たちがやるべきこと。そうじゃないか?」 「…うん、そうだね」 あの子達が自由に心のままに生きていけるように 俺たちはそれを全力で守り 支えてあげる 一番大切なことを 母親の俺が忘れちゃダメだよね 「ありがと、蓮くん」 ぎゅっと手を握り返すと。 蓮くんはすごく優しい顔で笑って頷いた。

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