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番外編 鴎(かもめ)10 side志摩
「うわぁ、きれい~!」
柊さんが結婚式を挙げたチャペルのドアを開いて、その眩い美しさに思わず声が出た。
まっ白な祭壇と十字架と、その周りにたくさんの色とりどりの花が咲き誇っていて。
まるで本物の天国みたい。
柊さんの結婚式の時も綺麗なチャペルだなぁと思ってたけど、あの時は夜だったから。
降り注ぐ太陽の光に彩られたチャペルは、いっそう神々しく感じた。
「本当に綺麗なチャペルだな。さすが、兄さんの作ったホテルだ」
龍さんが僕の肩を引き寄せながら、まるで自分の自慢みたいな声で話すから。
ちょっとだけ、可愛いな、なんて思いつつ、その大きな腕に寄りかかると。
後ろで、入り口のドアが開く音がした。
「すまない、遅くなった」
「兄さん」
そこから蓮さんが現れた途端、龍さんがぱっと嬉しそうな顔になって。
その子どもみたいな反応に、びっくりする。
龍さんって
そんな顔もするんだ…
ついまじまじと顔を見ちゃったらしくて、それに気づいた龍さんが慌てて顔を引き締めて、僕をちょっと乱暴に引き離した。
「…どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです」
蓮さんが俺たちを見て少し心配そうに眉を寄せたから、僕は笑顔で首を横に振る。
そうして、ちょっとだけ距離の空いた龍さんを見上げると、気まずそうに目を逸らされた。
龍さんって蓮さんのことすごく好きなんだなぁ…
なんか…すごく可愛いかも
「あとは俺が案内するから。君は他のお客様の方に回ってくれ」
「畏まりました」
蓮さんは、そんな僕たちを不思議そうに見ながら、それまで案内してくれてた女の人に声をかけて。
その人が出ていくと、ふっと雰囲気を和らげて僕たちの方へと近付いてくる。
「もう試食会へは参加した?どうだった?」
「はい、とっても美味しかったです」
質問に僕が答えてると、龍さんはなぜか咳払いをして。
「志摩がすごく気に入ってるし。今日契約するよ」
唐突に、そう言い出した。
「え、もう?まだ披露宴の会場とか見てないだろ」
「見てないけど、大丈夫」
「いやいや、ちゃんと見ていけよ。大事なことだろ。急いでるわけでもないんだから、志摩くんの為にも納得いくまで検討した方がいいんじゃないのか?このホテルだけじゃなくて、他の場所だってさ…」
「その志摩が、ここがいいって言ってるんだからさ。それでいいじゃん」
「だけど…」
押し問答を始めた二人を、僕は一歩下がったとこで眺める。
こうして見ると…
二人ともめちゃめちゃカッコいいなぁ…
でも、そんなに似てないかも…?
龍さんは背も高くて体格もがっしりしてて
イケメンアスリートっぽい感じだけど
蓮さんは龍さんと同じくらい背が高いけど
龍さんより細身でイケメン俳優さんっぽい感じ
それになにより
醸し出す雰囲気が違うっていうか…
なんかこう…柔と剛、みたいな感じ?
龍さんは強いαって感じがビシビシ伝わるけど
蓮さんはもっと柔らかい感じ
あれ…?
でもこの感じどこかで…
少し困った顔で龍さんと話す蓮さんに、なんだか既視感を覚えて。
それがなんなのかをしばらく考えてると。
不意に、柊さんの困ったように笑う顔を思い出した。
そうだ
雰囲気がどことなく柊さんに似てるんだ
そう気が付いた瞬間、ほわんと胸の中が温かくなる。
二人は本当は異母兄弟だっていうから
もちろん似てて当たり前なんだけど…
でもαとΩっていう全然違う種なのに
雰囲気が似てるのってなんか珍しいかも
それってきっと
二人がお互いをすっごく思い合ってるからなんだろうなぁ
僕と龍さんも
いつかそんな風になれたらいいなぁ…
「…志摩?なんで笑ってんだ?」
いつか来る未来をぼんやりと想像してると、無意識に顔が笑っちゃってたみたいで。
「なんか…こういうのいいなぁって思って」
正直に答えると、ますます不思議そうに龍さんは首を傾げた。
「こういうのって…なに?」
「なんで俺に聞くんだよ。おまえの番のことだろ」
なぜか蓮さんに答えを求めた龍さんは、やっぱりなんだか可愛くて。
「僕、結婚式やるんなら、絶対柊さんと同じところがいいって思ってたので。蓮さん、よろしくお願いします」
僕は笑顔のまま、蓮さんに向かって頭を下げた。
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