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番外編 鴎(かもめ)16 side楓
「ふーん…馬子にも衣装だな」
志摩のウェディングドレス姿を頭から爪先までじっくり見て。
那智さんはニヤッと笑いながら言った。
「えー、その言い方ひどいです!」
「那智は照れてるんだよ。ウェディングドレス姿の志摩が、あんまり可愛いから」
志摩がちょっと怒ったように頬を膨らますと、誉さんがのんびりとした口調でフォローを入れて。
「誉!余計なこと言うな!」
那智さんが、顔を赤くして誉さんの頭をひっぱたく。
「痛い…那智、ひどい…」
「うるせー」
相変わらずの二人のやり取りに、俺は志摩と顔を見合わせて笑った。
「体調は大丈夫?まだ時間あるし、座ってたら?」
立ってるのも辛いかと、手を引いて椅子へと座らせる。
1ヶ月ほど前に志摩のお腹に赤ちゃんが宿ったことがわかって
龍は式を延期することを提案したみたいだけど
志摩が大丈夫だからと結局日程を変えることなく今日を迎えていた
「ありがとうございます」
「悪阻、あんまりないって言ってたけど…辛かったら我慢しないですぐに言うんだよ?」
「わかってます。今日は誉さんも亮一先生もいるから、我慢はしません」
「そうだね。心強いよね」
「誉はあれだけど、亮一は頼りになるな」
「もう…あんまり誉さんに意地悪なこと言うと、結婚式での誓いのキスの写真、お店の子たちに公開しちゃうよ?」
通常営業だとはいえ、ちょっと誉さんが可哀相になって。
脅しのつもりで誉さんと那智さんの結婚式の写真が入ってる自分のスマホを翳すと、那智さんは目を剥いた。
「ばっ…やめろっ!っていうか、おまえそんなの撮ってたのかよ!」
「うん。だから、誉さんにもう少し優しくしてあげて」
「…わかったよ…ったく…おまえ、蓮と番になってから性格変わったな…」
「そうかな?別に変わってないけど」
首を傾げた俺に、那智さんが大袈裟な溜め息を吐いた時。
「楓、いるか?」
部屋をノックする音とともに、蓮くんの声が聞こえた。
「いるよ。どうぞ」
ドアに向かって声をかけると、少し遠慮がちに蓮くんが顔を出す。
「おお…志摩くん、すごく綺麗だな」
「馬子にも衣装、ですか?」
「え?」
ちょっぴり不貞腐れたような言い方に、蓮くんが驚いて俺を見るから。
肩を竦めてみせると、それで悟ったのか、ちょっと困ったようにふっと笑った。
「そんなんじゃないよ。本当に綺麗だよ。今日はおめでとう」
「ありがとうございます!」
一瞬でキラキラと輝くような笑顔になった志摩へと優しく微笑んで。
ちょいちょいっと俺を手招きする。
「なに?」
俺が近くに行くと、そっと手が握られた。
「あのな…龍の部屋に今、従兄弟連中が集まってるんだけど…みんなおまえに会いたいって言うんだよ」
そうして、伺うように俺の目をじっと見つめる。
「会いたい…?なんで…?」
「うーん…従兄弟だから?」
「え…でも…」
「とにかく、おいで。大丈夫だから」
強い力で、腕を引っ張られて。
俺は部屋の外へと連れ出された。
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