542 / 566

番外編 鴎(かもめ)17 side楓

仕事が忙しく 年に数ヶ月しか家にいない九条のお父さんが珍しく家にいる時 必ず蓮くんと龍を連れて出かける日があった 帰ってくると決まって龍が楽しそうに従兄弟たちと遊んだ話をしてて それが九条家の親族の集まりなんだと知った でも俺は絶対にそこには連れていってもらえなくて… その時になんとなく 自分の存在は公には出来ないものなんじゃないかと感じた 全てを知った今となっては 恐らくαしかいないだろう集まりに俺を連れていって なにか事故でもあったら… という九条のお父さんの気遣いだったんだろうと思うけど 幼かった俺にはそんなことはわからなくて 二人がいない夜は寂しくて寂しくて 部屋に閉じ籠って泣いていた でもいつの頃からか お父さんが龍を連れて出かける時には 蓮くんは家にいるようになった きっと蓮くんが俺の気持ちに気付いて 俺が一人ぼっちで寂しくならないようにしてくれてたんだろう いつもそうやって 然り気無く俺を気遣ってくれていた ずっとずっと 蓮くんは俺のことを守ってくれてたから…… 俺の手を引いて歩く、誰よりも頼もしくて大きな背中を見ていると、不安な気持ちが少しずつ和らいできて。 初めて会う従兄弟たちって、どんな感じなんだろうって少しだけ興味が沸いた時。 ピタリと蓮くんが立ち止まった。 「…ごめん」 「蓮くん?」 「俺、翔たちが楓に会いたいって、楓を含めてまた従兄弟たちで集まりたいって言ってくれて、なんか嬉しくて舞い上がってたけど…おまえの気持ち、ちゃんと確かめてなかったよな。ごめん」 振り向いた蓮くんは、ちょっと情けない顔で眉を下げてて。 「ここまで引っ張ってきといてあれだけど…おまえが会いたくないってんなら、会わなくていいから。ちゃんと言って欲しい」 俺の心を覗き込むように、俺を真っ直ぐに見つめる。 蓮くんはいつもどんな時でも 俺の気持ちを一番に考えてくれる 俺が言いたいことを我慢したりしないように そういう優しさが 「…大好きだよ」 「え?」 思わず漏れ出てしまった心の声に、びっくりした顔になった蓮くんの手を、ぎゅっと握った。 「大丈夫。だって、蓮くんが側にいるもん」 本当のこと言うと まだ九条のことを考えると心の奥底が少しだけぎゅってなる でも お父さんたちが全力で守ってくれてた俺を 蓮くんが全身全霊で愛してくれる俺を 強くて優しい 大切な人たちと同じ血が流れる自分自身を 愛おしいってようやく最近 ほんの少しだけそう思えるようになってきたから 「だから、大丈夫」 頷いてみせると、蓮くんはなぜか泣きそうな顔になって。 そっと、俺を抱き締めた。

ともだちにシェアしよう!