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番外編 鴎(かもめ)19 side蓮

白い陽の光に照らし出された厳かな空間に、楓の奏でる優しい讃美歌が流れる。 楓は今日は黒のジャケットにグレーのベストを着ているけど、柔らかい微笑みを浮かべながらピアノを奏でるその姿は、いつものように天使みたいで。 誰よりも美しい楓の姿に見惚れているとチャペルのドアが開いて、今日の主役の二人が現れた。 真っ白いタキシードを着た龍と、ウェディングドレス姿の志摩くんと。 そして龍の腕には、可愛らしい白いスーツを着た世絆が抱かれている。 割れんばかりの拍手のなか、二人は揃ってお辞儀して。 ゆっくりとした足取りで、一緒に足を踏み出した。 踏み締めるように一歩ずつ。 楓の音に包まれて、三人は祭壇へと向かう。 志摩くんはもちろんだけど、龍も見たことのないくらい晴れやかで誇らしげで、そして幸せそうな顔をしていて。 胸の奥にジンと熱いものが広がった。 ようやくあんな顔が出来るようになったんだな… 嬉しいような、安堵したような。 兄というよりは保護者のような、不思議な感傷を感じながら楓の方へと視線を向けると。 楓も柔らかい微笑みを浮かべて、三人を見つめていて。 また、胸の奥が熱くなった。 「おめでとう、龍!」 「志摩くん、おめでとう!」 恙無く式が終わり、再び楓の奏でる讃美歌の美しい音色の中をゆっくりと退場していく三人に、みんなが口々にお祝いの声を掛ける。 そういえば… 再会した当初、入院した志摩くんのお見舞いに来てくれる人間は誰もいなくて 龍の立ってる場所がすごく不安に感じたこともあったな… それが今はこんなにも大勢の人が二人を祝福してくれるなんて… 「よかったぁ…ホント、よかったよぉ…」 心の中で呟いたはずの台詞が、後ろから聞こえてきて。 驚いて振り向くと、涙と鼻水でべしょべしょの顔をした春海がいた。 「ちょ…汚っ…」 「春海ぃ、おまえ子どもかよ!」 和哉が慌ててハンカチを取り出し、春海の顔を力任せにゴシゴシと拭き。 亮一は呆れ顔で溜め息を吐く。 「だってさぁ…あいつずっと、ひとりぼっちだったからさぁ…」 だけど、春海の涙は止まらなくて。 「このままずっと独りなのかなって、俺、心配だった。楓のことも心配だったけど、龍のことも同じくらい心配だったんだよ…だから、こんなに沢山の人に囲まれて、ホントに幸せそうな龍を見られて、ホントに嬉しいんだもん」 ぐちゃぐちゃの顔で、笑った。 そういえば 俺がアメリカにいた頃 春海だけが龍と接点を持っていたんだった 優しい春海のことだ 龍のやったことを知っても 放ってはおけなかったんだろう あの時春海が側にいてくれたからこそ 龍は今笑えてるのかもしれないな… 「…ありがとな、春海…」 おまえが俺の いや、俺たちの親友で、本当によかった 心からの感謝を伝えると、春海の肩を抱いた和哉もそっと微笑む。 「あーあ…志摩のあんな幸せそうな顔を見ちゃったら…俺もそろそろあいつを許すしかないかぁ」 俺たちの様子を見ていた那智さんが、仕方なさそうな声でそう言ったけど。 その顔はどこか嬉しそうで。 「そうだね」 那智さんの隣で、誉さんも大きく頷いた。 「…っていうか、龍くんのこと、まだ許してなかったんですか?結婚式まで参列しておいて!?」 「うるせ!ガタガタ言うと、うちの店出禁にするぞ!」 「はぁ!?なんですか、それ!めちゃくちゃじゃん!」 亮一と那智さんのやり取りに、周りからは笑い声が溢れて。 優しく温かな空間に、楓の柔らかなピアノ音がいつまでも響いていた。

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