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番外編 鴎(かもめ)20 side蓮

子どもたちを寝かしつけてリビングへ戻ると、楓は驚いて鍵盤から手を退けた。 「え?二人とも、もう寝たの?」 「ああ」 「今日は長い時間預けちゃったから、疲れちゃったのかな…」 不安そうに顔を曇らすから。 「いや、楓のピアノの音が子守唄代わりになったんだろ。グズリもせずに、すぐに寝ちゃったよ」 後ろからそっと抱き締め、頬に触れるだけのキスを落とす。 結婚式が終わって家に帰ってきても 楓は興奮冷めやらぬ様子で 子どもたちの世話もそこそこに ずっとピアノを弾いていた 「ごめん。あの子達のこと、蓮くんに任せっぱなしで…」 「いいんだよ。ピアノ弾きたい時は、好きなだけ弾けば。楓が好きなようにすればいい」 「もう…蓮くん、俺のこと甘やかしすぎ」 俺の台詞に、楓は困ったように眉を下げ。 腕の中でくるりと向きを変え、俺を真正面から見つめると。 しっとりと唇を重ねてきた。 「…楽しかった?結婚式」 「楽しかったって言うか…嬉しかった」 啄むようなキスの合間に訊ねると、楓はふわりと柔らかに微笑む。 「志摩の幸せそうな顔を見られたのも嬉しかったし、龍の幸せそうな顔を見られたのも嬉しかったし…そんな二人を心から祝福出来た自分にも、嬉しかった」 「そうか」 「いい、仕事だね。俺、これからも結婚式でピアノ弾く仕事、やりたいな」 「楓がその気なら、もちろんいいよ。需要はあるだろうし」 「そう?じゃあ、次は満くんの結婚式かな?」 「えっ!?」 唐突に出てきた話に、驚いて顔を離すと。 楓は俺が驚いてるのに驚いたみたいに、目を真ん丸にした。 「なにそれ。満?なんで?」 「なんでって、今度結婚式やるから、是非ピアノ弾いてくれって言われたよ?」 「いつ!?」 「いつって…披露宴の後。蓮くん、那智さんたちと話してたからさぁ…」 あいつ! 俺の目を盗んで楓に近付きやがって! 「だから、結婚式は是非このホテルでって営業しといたよ。喜んでたから、そのうち満くんから連絡あると思う」 どう?よくやったでしょ? みたいな、ちょっとやってやった感を出してくる楓が、なんか可愛かったけど。 それよりも、胸に広がるモヤモヤしたもののほうに気を取られる。 「他は?」 「ん?他って?」 「あいつらと、なんか話したりしたか?」 「あいつらって…従兄弟さんたちと?」 「ああ」 「翔さんとは、奥さんも交えて今度会う約束したよ。翔さんの奥さん、ホントに俺のファンらしいから…」 「勝手に!?」 「え?ダメだった?蓮くんも一緒ならいいよって言ったら、もちろん良いよって言ってくれたから、いいかと思ったんだけど…」 「あ、いや、駄目、じゃないけど、さ…」 「翔さんの奥さん、今妊娠5ヶ月なんだって。でも、周りにΩの知り合いいないらしくて。妊娠中のこととか出産のこととか、いろいろ聞きたいって。俺も順調な妊夫生活じゃなかったから参考にはならないかもしれないけど、それでも話をすることで、ちょっとでも不安を取り除けてあげたらいいなと思ったからさ」 「…うん…」 わかる わかるよ? 楓が優しいから 翔の奥さんのこと放っておけないってこと でも…… 「蓮くん?どした…って、うわぁっ!」 モヤモヤしたものが、大きくなって。 気がついたら、楓の身体を持ち上げて肩に担いでいた。

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