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超番外編 雀鷹(ツミ)1 side櫂
注)このお話は、本編完結時から8年後、凪&櫂が中学一年生になった時のお話です
「教科書21ページを開いてください。前回の授業では、Ω性の生態について学びましたが、今回はα性との番契約、及びΩ性のヒートについて学習したいと思います」
授業の最初の一言に、もうその時間の内容に興味を失って。
俺は鞄から、一昨日伊織からもらったフランス語の原文で書かれたスタンダールの赤と黒を取り出し、保健体育の教科書の上に開いた。
教師はちらりと横目でそれを見て、一瞬眉を潜めたけど。
俺が見返すとふいっと目を逸らし、そのまま何事もなかったように授業を進める。
直後にクラスメート達の視線がいくつか飛んできたけど、それを無視して手元に視線を落とした。
日本語訳のは去年読んでいたから、原語との微妙なニュアンスの違いなんかを探しながら読んでいると、あっという間に物語の世界に引き込まれて。
没頭していたら、遠くで授業の終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。
「櫂~、おまえ、堂々と授業ボイコットし過ぎだろ…」
教師が足早に教室を去っていくと、後ろの席の梁瀬隆之介が呆れた顔で、俺の背中をツンツンと指先で突いてくる。
「仕方ないだろ。番とかヒートとか…そんなもん、授業なんか聞かなくったって知ってるし」
「あー、おまえの親、αとΩだもんな」
「…あぁ」
「入学式の保護者席で注目浴びてたよなぁ…めちゃくちゃ美形が並んで座ってるって。特におまえの母ちゃん、男なのにめちゃくちゃ美人だったし。俺の父ちゃん見惚れちゃって、式の間中ずっと見てたらしくってさ。家に帰ってから母ちゃんと大喧嘩だったわ」
「へぇ…」
楽しそうにニヤけた表情に、嫌な予感しかなくて。
席を立とうとしたら、その一瞬前に隆之介が俺の腕をがっちりホールドした。
「なぁなぁ、やっぱスゴいの?ヒートの時って」
…ほらでた
絶対聞かれると思ったわ
「…知るかよ」
「えー?だって、同じ家の中で一週間も籠ってりゃさ…嫌でもなんかわかるんじゃないの?」
「おまえ、授業聞いてたんだろ?最近はΩ用の良い抑制剤が出てるから、ヒートを回避したり、子作りしたい時の1日だけにしたりするって言ってただろ」
「櫂…授業聞いてたんだ…」
「それくらい、常識として知ってるよ」
まぁ…
うちにはその常識は全く当てはまらないけど…
それはこいつにわざわざ言ってやることでもない
「だいたい、親のそういうとこ、おまえ見たいと思うか?」
「えー?俺の親は絶対嫌だけどさぁ、櫂の親なら見たいかも!なんか、美しそう!」
「…くだらないこと言ってないで、第一理科室行くぞ。遅れたら、岡本先生に怒鳴られる」
「やべっ!岡ぴー、機嫌損ねるとめんどくせーじゃん!」
話を打ち切るために、次の移動教室を促すと。
隆之介は慌てて机の中から理科の教科書を取り出し、立ち上がる。
「行くぞ、櫂!早くっ!」
その切り替えの早さに呆れつつ、俺は隆之介の後を追った。
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