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超番外編 雀鷹(ツミ)3 side櫂

……………ん? ドキ……? なんで…? って、馬鹿か俺! 凪は兄弟だろっ!!!! 「ん?どしたの?」 思わず凪から目を逸らすと、不思議そうに覗き込んでくるから。 顔ごと、そっぽを向いた。 なんか 今顔を見るとヤバい気がする… 「…なんでもない」 「なんでそっち向いてんの?」 「なんでもないってば。…あ!あそこ!あそこ入ろう!俺、なんか腹減ったわ。家まで保たねぇ!」 無理やり顔を覗き込まれそうになって、俺は慌てて視線の先にあるファーストフード店を指差す。 「えーっ!せっかく今日はママが仕事休みなのに!」 「ちょっとだけ!ママにはちゃんと連絡するし!」 俺は取り出した携帯で素早くママにメッセージを送り、凪を引きずるようにして店に向かった。 学校帰りの学生たちで少し混雑してる店内で空いてる席を探し、注文したりしてる間にさっきの変なドキドキはいつの間にか消え去っていて。 密かにホッと息を吐きだしながら、ハンバーガーにかぶり付く。 凪はまだ俺のことを怪訝そうに見つめていたけど。 やがて、小さく息を吐いて、俺のトレーに乗ってるポテトを一つ摘まんだ。 「ねぇ、読んでた小説って、一昨日伊織が持ってきてくれたやつ?」 「そうだよ」 咀嚼の合間に返事をすると、凪ははーっと大きな溜め息を吐いて、テーブルに突っ伏す。 「ずるいぃ…」 「なにが?」 「なんで、僕がいない時に来るんだよぉ…」 「仕方ないだろ。おまえ、ピアノのレッスンの時間だったじゃん」 「日曜はレッスンだって知ってるのにぃ…」 「総理大臣になっちゃったんだから、忙しいんだよ。わかってんだろ」 「そうだけどさぁ…最近、いっつも僕がいない時に来るんだもん。寂しいよ…」 顔を伏せたまま、しばらくゴニョゴニョなんか言ってたけど。 おもむろにガバッと顔を上げ、俺に両手を差し出した。 「その本、ちょっと貸して!」 「なんで?おまえ、フランス語なんかわかんないだろ?」 「いいからっ!お願いっ!」 急かすように、両手をパタパタと動かすから。 仕方なく鞄から取り出して渡してやろうとすると、凪は引ったくるようにそれを奪い取って。 自分の顔に押し当てた。 「…伊織の匂いだ…」 そうして、嬉しそうに顔を綻ばせ、クンクンと子犬みたいに本の匂いを嗅ぐ。 その様子を見てると、なんかモヤっとしたものが胸に広がった。 国が定めた二次性別の検査は中学二年生で行われるから まだ凪がΩだって決まったわけじゃないけど 最近の凪には顕著にΩの兆候が現れている 伊織に関することでは特に たぶんパパもママも そして伊織もそれをわかってて だから敢えて 凪がいない時間に訪ねてくるんだろう 最近の凪は明らかに Ωとしてαの伊織を見ているから 尤も本人はまったくの無自覚なんだけど… 「…おまえって、本当伊織が好きだよな」 「うん。櫂だって、好きでしょ?」 「そりゃ、まぁ…尊敬はしてる」 「尊敬って…なに、その他人行儀な感じ。ちっちゃい頃から、いつも伊織の後追っかけてたの、櫂の方じゃん」 「それは、伊織の話が面白かったからでさ…」 おまえの好きとは違うよ 続けようと思った言葉は、口にする前に飲み込んだ。 「…あいつは、おじさんだぞ?パパより六歳も上なんだからな」 代わりに、牽制する言葉を口にすると。 凪は一瞬目を真ん丸にして、それから声を上げて笑い出す。 「知ってるよぉ。なに?なんで今さらそんなこと?あ、もしかして、僕が恋愛対象として伊織を見てるって?まさかぁ!櫂、変な心配しすぎ!」 本を大事そうに胸に抱え。 どこか不自然にケタケタと笑う凪を見つめながら、俺は心の中でこっそり溜め息を吐いた。

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