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超番外編 雀鷹(ツミ)4 side櫂
家に帰り、夕飯を食べ終わったタイミングで、その違和感に気付いた。
「凪、春くんが買ってきてくれたケーキあるよ。食べる?」
「食べる食べる!」
嬉しそうにピョコンと飛び跳ねた凪を見て目を細めたママから、なんとなくフェロモンが漏れてる気がする。
もちろん、パパの番であるママから、本当にフェロモンを感じることはない。
ママのフェロモンを感じることが出来るのは、世界でたった一人、パパだけだ。
なのに、不思議なんだ。
一年くらい前から、なんとなくママのヒートの時期がわかるようになってきた。
それは俺がママと血が繋がってるからなのか。
それとも他の要素が原因なのか。
それは、わからないけど…。
「手伝うよ」
冷蔵庫からケーキの箱を取り出す背中に声をかけ、食器棚からお皿を取り出すと。
ママは少し驚いたように目を見開き。
すぐにふわりと優しく微笑んだ。
「ありがと」
その微笑みが、いつもより少し幼く見えて。
疑問が確信に変わる。
「凪、苺のムースとガトーショコラ、どっちがいい?」
「チーズケーキ!」
「そんなのないって」
「えー、じゃあイチゴ!」
凪の返事を聞く前に、苺のムースを凪の皿に乗せ。
次にモンブランをママの皿に乗せると、ママは嬉しそうに笑いながら俺の肩をポンと叩いた。
「…ねぇ、パパは?」
「え?」
「パパは、いつ帰ってくるの?」
肩にママのぬくもりを感じながら、訊ねる。
パパは去年ホテルの総支配人の役を退いて
今は菊池ホテルズの副社長として
グループのコンサルタント業務で日本全国を飛び回ってる
パパはママのために建てたらしいあのホテルから離れるのをとても嫌がってたみたいだけど
社長さんにどうしてもと頼み込まれてしぶしぶ引き受けたらしい
だから最近は家にいないことが増えて
ママは少し寂しそうにしてることがある
パパの副社長就任はママが後押ししたのが決め手になったって菊池社長がママにお礼を言ってたけど
本音はやっぱり側にいて欲しいんだよね
もちろん俺や凪の前ではそんな顔絶対見せないけど
だから普段はママが寂しくないように
俺も凪も出来るだけママの側にいるようにしてるけど
ヒートだけはどうしようもないよなぁ…
「一昨日、出掛けたばかりでしょ。帰ってくるのは5日後だよ」
「…早く帰ってきてもらえないの?」
「なぁに?パパに相談事?」
「違うけど…」
「ママじゃ、頼りないかぁ」
「違うって。そんなんじゃないから」
ちょっとだけ寂しそうな顔をするから、そこは強く否定する。
「頼りなくなんかないよ。俺、困ったことがあったら一番にママに相談してるから」
早口で捲し立てると、眉を下げて。
「うん。ありがとね」
幼い子どもにするみたいに、俺の頭を撫でた。
どうやら自分の体調の変化には気がついてないらしい
後でパパに連絡しといた方がいいかもな…
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