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超番外編 雀鷹(ツミ)7 side櫂

翌日。 放課後の部活を終え、着替えて凪のところへ行こうと部室を出ると、世絆が待ち構えてた。 「今日から俺んちだってさ。凪は、うちの母さんが迎えにきて連れてったよ」 「ああ、ありがとう」 予想していた通りの台詞に、礼を言って。 並んで歩き出すと、世絆は俺の顔をじーっと見つめる。 「…なに?」 「いや…櫂さ、楓さんのヒートが来るって、わかってたん?」 「うん、なんとなく」 「へー…相変わらず勘がいいなぁ。俺なんて、母さんがいつヒートなんだか全然わかんないけど」 「普通はそうだよ。番持ちのΩなんだから、番以外にわかるわけない。それがたとえ子どもでも」 「じゃあ、なんでおまえはわかるんだよ?」 「俺は…なんか変なんだ。たぶん」 「ふーん…?まぁ、おまえって検査なんかしなくても、絶対αだってわかるもんな。その年でそんなわかりやすいの、なかなかいないし」 「そんなのまだわかんないよ」 「いや、わかる。おまえは絶対αだ。自分でもわかってんだろ?」 なぜかニヤリと楽しげに笑った世絆を見て、思わず言葉に詰まった。 「ほらね」 「…なんで、世絆が勝ったような顔すんだよ」 やらしい笑い方に、ちょっとムッとして。 首に腕を回し、ヘッドロックをかますと。 「いててててっ…ギブ、ギブ!!」 たいして力入れてないのに、大袈裟に痛がるから。 つい噴き出すと、世絆もつられたように笑い出す。 「まだまだガキだなー、俺たち」 「世絆はな。俺は違う」 「ふーん…まぁ、そういうことにしといてやろう」 「…もう一回、ヘッドロックかましてやろうか?」 「それはやめて!」 くだらない会話を続けながら歩いてると。 「でも、おまえたちってホント、わかりやすい双子だよなー。おまえはαで、凪はΩだもんな」 世絆は、さらりとそれを口にした。 「…まぁ…たぶん…」 答えた声は、自分でもわかるほどに硬くて。 それ以上の言葉を告げられないでいると、世絆はちらりと横目で俺を見て、ポンポンと肩を叩いてくる。 「ま、心配しなくても大丈夫だ。凪のことは、俺が絶対守るから」 「……はぁ!?」 そうして、次に飛び出した台詞に、反射的に大きな声が出てしまった。 「なんで世絆が守るんだよ!凪のことは、俺が守るからっ!おまえは葵陽と一颯を守ってればいいだろ!」 「あー、あいつらなぁ…もちろん可愛いけど、凪とは違うんだよなぁ」 「違うって、なにが!?」 「だって、兄弟じゃん?たとえばあいつらがΩだったとしても、兄弟で番になれるわけじゃないし。そうすると、いつかはどっかのαに任せるしかないじゃん?」 「そう、だけど…ってか、おまえ、まさか凪を番にしたいとか思ってんじゃないだろうな!?」 「えー?そのまさか、だけど?」 「ふざけんなっ!ってか、凪の気持ちはどうなんだよ!」 「そりゃ、もちろん凪の気持ちが俺に向いてくれたら、だけどさ。ちっちゃい頃、凪にお嫁さんになってくれる?って聞いたら、いいよって言ってくれたし」 「はぁ!?そんなガキの頃の話なんか、無効に決まってんだろ!とにかく、凪は俺が守るからっ!従兄弟だからって、おまえには任せられねぇ!」 なんだか無性に苛々して、話を強引にぶったぎると。 「…おまえって、ホント…ブラコン…」 風に乗って、微かに悪口が聞こえてきたから。 「っ…誰がブラコンだっての!」 俺は今度こそ渾身のヘッドロックを世絆にお見舞いしてやった。

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