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超番外編 雀鷹(ツミ)11 side櫂

「あーっ!兄ちゃん、あおの唐揚げ取ったでしょ!」 「はぁ?知らねぇなぁ。あおの勘違いじゃね?」 「取った!絶対取った!最後に食べようって残してたのにーっ!」 「…うるさい…」 「もーっ、やめなさいっ!せっちゃん、弟のもの、勝手に取っちゃダメでしょ!」 いつも通りの、騒がしい夕食。 くだらない兄弟ゲンカに思わず苦笑いしながら、俺は自分の皿に残っていた唐揚げを葵陽の皿に乗せてやった。 「ほら、俺のやるからもう怒るなって」 「え…でも…」 それまで顔を真っ赤にして怒ってた葵陽は、びっくりしたように目を真ん丸にして。 それからなぜか、俺じゃなくて隣に座ってる凪の顔を伺うようにチラリと見る。 「…遠慮しないで、食べたら?」 それまで騒がしさなんてどこ吹く風って感じで黙々と食べてた凪は、その視線に気付くと、ママにそっくりなふんわりと優しい笑みを浮かべた。 「うんっ!ありがと、かーくん!」 さっきの玄関でのやり取りで、機嫌が悪いのかと思ってたから。 いつも通りの凪の様子にこっそりと安堵の息を吐いてると。 「そういえば、蓮さんは今日中に戻ってこれるの?僕が二人の荷物取りに行った時は、まだ柊さん一人だったけど…」 不意に志摩さんに訊ねられて、瞬時にもやっとしたものが胸に広がる。 「あ、いえ…どうしても外せない会議があるみたいで、明日の朝一で戻るって言ってましたけど」 「そっか。柊さん、今夜一人で大丈夫かなぁ」 そうして、心配そうに眉を曇らせる志摩さんから、つい視線を逸らしてしまった。 『柊さん』 志摩さんはママのことをずっとそう呼んでいる 柊っていうのはママが昔那智さんのお店で働いていた時の源氏名で 志摩さんとママが知り合ったのはそのお店だから どうしてもその名前で呼んじゃうんだよねって志摩さんは笑って言うけど 俺は最近、志摩さんがママのことを『柊さん』って言う度に、なんだかひどく嫌な気分になる 那智さんのお店『Angel's ladder』 男Ωばかりを集めた会員制の高級クラブ 高級っていえば聞こえはいいけど 実際はα相手に身体を売ることもある、らしい ママはそういうことはしてなかったって信じてるけど そんな店で働いてたってこと自体がなんかちょっと嫌で… っていうか そもそもパパはママと一緒にいるために家督を放棄したはずなのに なんでママがそんなところで働かなきゃならなかったんだ? αなら愛するΩを命懸けで守るもんじゃないのか…? 「でも、蓮伯父さんは偉いよなー。妻の為に、ちゃんと仕事を片付けて帰ってくるもんな」 一人で悶々とパパへの不満を募らせていると、これ見よがしな世絆の大きな声が聞こえてきて。 「…せっちゃん、それ、どういう意味?」 驚いて顔を上げると、珍しく怒った顔の志摩さんと世絆が睨み合っていた。 「どういう意味って、そのまんま。父さんなんて、母さんのヒートに合わせて帰ってくることなんて、もう何年もないじゃん。それって、番としてどうなの?」 「それは仕方ないでしょ!お父さんはお仕事大変…」 「そんなの、誰だって同じだろ。俺は、父さんみたいな仕事を言い訳にして妻を蔑ろにするαにはなりたくないね」 吐き捨てるように、そう言って。 世絆は、ガタンと椅子を大きく鳴らして立ち上がり。 「ごちそうさま。俺、宿題やるから邪魔しないで」 「せっちゃん!待ちなさい!」 志摩さんが止めるのも聞かずに、ダイニングを出ていってしまう。 「…兄ちゃん、どうしたの…?」 残された居心地の悪い空気のなか、泣きそうな葵陽がポツリと呟いて。 「どうしたんだろうね?反抗期かな?ねぇ、櫂」 慰めるようにその頭を撫でながら、志摩さんがなぜか俺に向かって同意を求めるから。 「まぁ…そう、なのかもしれませんね」 とりあえず、適当に頷いておいた。

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