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超番外編 雀鷹(ツミ)12 side櫂
「あいつ…なんなんだよ…」
結局、その気まずい雰囲気のまま、夕飯が終わってしまい。
約束した葵陽のピアノも、なんとなくそんな気分にもなれなくて。
俺と凪は早々にあてがわれた部屋へと引き上げた。
「いくら反抗期って言ったってさ…なにも、俺らが来てる時に爆発させることないじゃんか」
布団に寝転がってぶつくさ文句を垂れる俺の横で、凪は無表情で黙々と荷物を整理してる。
いつもなら、夕飯の後は子ども5人で凪のピアノを聞いたり、ゲームしたり、時々は一緒に勉強したりして、楽しく騒いでる時間なのに。
それをなにより楽しみにしてるのは凪なのに。
なにも思わないのか…?
「凪も、そう思うだろ?」
少しの苛立ちと共に、同意を求めると。
凪はようやく顔をこっちへ向けて、小さく肩を竦めた。
「まぁね」
「だよな」
「でも…櫂は、世絆の気持ちわかるんじゃない?」
「え?」
「櫂だって、パパのこと最近避けてるじゃん」
そうして、曇りのない真っ直ぐな目で俺を見つめるから。
その視線に貫かれて、俺は一瞬言葉に詰まる。
「そん…なこと、ないよ」
「まぁ、櫂は上手く誤魔化してるつもりなんだろうけど。バレてるよ。ママが悩んでたもん、自分の育て方が悪かったのかなって」
「はぁ!?」
「だから、ただの反抗期でしょってちゃんと答えといたよ」
「誰が反抗期だよ!」
「違うの?」
「違うし!」
「じゃあ、なんなの?」
ひどく冷静な声で問われて。
背中を、変な汗が流れてった。
「だっ…てさ…パパとママは運命の番なのに、パパはママのことちゃんと守れてないじゃん。夜の仕事させたり…あの左腕の傷だって、まるで自傷行為の痕みたいに見えるし…そういうの見ると、なんかムカムカするっていうか…」
ここんとこ、ずっと抱えてるモヤモヤを、なんとか言葉にすると。
凪は小さく息を吐く。
「まぁね。ママは過去にいろいろあったんだろうなっていうのは、僕にだってわかるけどね」
「だろ!?」
「でも、今のママはすごく幸せそうじゃん。それは、パパが側にいるからでしょ?パパが全身全霊でママを愛してるから。櫂は、それ以上の何をパパに求めてるの?」
そうして、とても穏やかな口調でド正論を吐かれて。
今度こそ、返す言葉を失ってしまった。
凪はもう一度大きく息を吐き出して。
それからまた、どこか遠くを見るように視線を宙に向ける。
「どれだけ抑制剤が進化したってさ。Ωである限り、理不尽な人生を送らなきゃならないリスクはあるでしょ。無理やり番にされて、一生好きでもない奴に服従していかなきゃならないΩは、今でも少なくないし」
その名前の通り、白波一つない穏やかに凪いだ海のような横顔は、それでもなぜか泣きそうに見えて。
「そんな世の中で、誰よりも愛する人に出会えて、その人に愛されて…その人と、運命っていうなにより強い絆で結ばれててさ。Ωとして、これ以上の幸せってないと思う。もし僕がママだったら、過去になにかあったとしても、そんなのどうでもいいくらい幸せだって思うと思うけどね」
ゆっくりと俺に向き直り、ママにそっくりな笑顔を向けた凪を。
気が付いたら、強く抱き締めていた。
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