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超番外編 雀鷹(ツミ)14 side櫂

志摩さんや小夜さんに言うとまた面倒なことになりそうだから、こっそり屋敷を抜け出し、こっそり世絆のチャリを借りて、家へと向かった。 交通量のだいぶ減った道を爆走し、20分程で着いた自宅の玄関を音を立てないようにそっと開けると、家のなかは真っ暗で、水を打ったように静まり返っている。 ママ、寝てんのかな…? 一瞬、ママたちの部屋へ足を踏み出そうとして。 でもすぐに思い直して、自分達の部屋のある2階への階段に向かった。 いくら寝てるったって いくらフェロモン感じないったって やっぱりヒート中のママを覗いちゃいけない ママだってきっと そんなの見られたくないだろうし… 何度も何度もそう心の中で繰り返して呟きながら部屋に入り、机の引き出しを開けると、すぐに目的のプリントは見つかった。 それを折り畳んでポケットに突っ込み、さっさと戻ろうと階段を足音を立てないように降りていた時。 「…ぁ…」 カタン、という小さな物音と共に、小さな声が聞こえてきて。 思わず、足を止める。 瞬間、パッと脳裏に浮かんだのは、1ヶ月前のママの姿。 キッチンの床に蹲って 苦しそうに胸の辺りを両手で握り締めてて 激しく乱れた呼吸 額に浮かぶ玉のような汗 まさかっ…… 玄関へ向かおうとした足を、急いでママの部屋へと向ける。 その間ずっと、俺の頭の中にはまるで警鐘のようにあの日のママの苦しげな姿が鮮明に浮かんでは消えて。 汗濡れの手で、ママの部屋のドアノブを掴んだ瞬間。 「っ…あ、ぁっ…れん、く…もっとっ…」 中から聞こえてきたママの初めて聞く声に、身体が硬直した。 ………え? 「ん、んぅっ…れんくっ…れんくんっ…」 「…楓…気持ちいい…?」 「んっ…いいっ…れんくん、もっとっ…」 …………パパ…? 帰ってきたんだ……? 手を、離そうとした。 部屋の中から聞こえてきたのはママと、紛れもないパパの声で。 パパが帰ってきたんだったら、ママのことはもうなにも心配することないんだから。 ヒート中の二人のことはそっとして、さっさとこの場を立ち去るんだ。 頭では、そうわかってるのに。 「っ…あぁぁっ…いいっ…」 足が、動かない。 「れんくんっ…もっと、おくっ…」 聞いたこともない、ママの艶かしい声が頭の中でぐわんぐわんと反響して。 俺を縛り上げていく。 そして。 無意識に、握り締めたままのドアノブを、そっと引いた。 その瞬間、俺の目に飛び込んできたのは。 「…愛してるよ、楓…」 「ん…俺も…愛してる…蓮くん…」 少し開いたカーテンから差し込む月光に照らされた 息を飲むほどに美しいΩの姿だった

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