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超番外編 雀鷹(ツミ)15 side櫂

ずっと頭から離れない 『蓮くん…愛してる…』 俺の知らない 甘く掠れた声 俺の知らない 甘く蕩けた眼差し 淡い月明かりに照らされた しなやかな獣のように揺れる白い肢体 ママって… Ωって あんなに綺麗な生き物なんだ…… 「おーい!櫂ってば!!」 ぱしっ、と頬に軽い痛みが走って。 はっと我に返ると、目の前で凪が頬をリスみたいに膨らませて、俺を睨んでた。 「え…凪…?」 「もー、どうしたの?帰ってきてから、ずっと変だよ?」 眉間の皺を深くしながら、俺の頬を包むように当ててた手でぎゅーっと頬をつねってくる。 「いででででっ…なにすんだっ!」 「…まさか、ママの部屋、覗いたんじゃないよね…?」 じとっと探るような眼差しで見つめられて。 冷や汗が、吹き出た。 「ま、まさか!そんなこと、するわけないだろっ!」 「ほんとぉ?」 焦って否定しても、凪の視線が緩むことはなくて。 「ホント!それに、パパが帰ってきてたし!」 急いでそう付け加えると、途端に凪の顔がぱっと明るくなる。 「ほんとに?パパ、帰ってきてたの?」 「う、うん。玄関に靴があったから、間違いない」 その表情に内心ホッとしながら、早口で適当にそう言うと。 凪はようやく俺の頬から手を離して、心底安心したように大きく息を吐き出した。 「よかったぁ…パパが帰ってきてくれたんなら、ママ大丈夫だね」 「うん」 嬉しそうな凪の横顔を見ながら、心の中だけで俺も息を吐く。 よかった… とりあえず誤魔化されてくれたらしい それでも、これ以上追及されるとボロを出しそうな気がして。 そーっと背中を向けて、取ってきたプリントをポケットから取り出した。 「…じゃあ、なんであんなにぼーっとしてたの?」 「めっちゃ爆速でチャリ漕いだから?ちょっと疲れたのかも」 「そっかぁ…って、櫂が疲れるって、どんだけスピード出したの」 プリントにシャーペンを走らせながら適当に答えると、クスクスと笑いながらようやく納得したのか、凪はそれ以上は突っ込んでは来ない。 「じゃあ僕、先にお風呂もらってきてもいい?」 「ああ。俺はこのプリント終わらせてから入るから」 「わかった」 背後でごそごそと動く気配がして。 するりと俺の横を通り過ぎた凪から、不意にふわりと花の香りがした。 「えっ…」 驚いて顔を上げると、薄いTシャツにハーフパンツ姿の凪が、ドアの向こうに消えるところで。 身体のラインがうっすらと透けて見えたその背中に、さっきのママの艶かしい裸体のシルエットが重なって見えて。 ばくんっ!と心臓が跳ねた。 瞬間、またさっきのママの姿が鮮明に脳裏に蘇ってくる。 凪も…… もしもΩなら、凪も あんな風に甘い声で あんな風に甘い眼差しで…… 『…愛してる…』 「って!!!!なに考えてんだ!!!」 凪は兄弟だぞ!!! 想像して良いことと悪いことがあるだろ!!! 「馬鹿かっ、俺はーーーっ!」 「かーくん?なにやってんの?」 邪な想像を追い出そうと、自分で自分の頬っぺたをつねってると、不意に葵陽がひょこっとドアの向こうから顔を出す。 「い、いや…なんでも、ない…」 「そう?…なんか変だよ?かーくん」 「そ、そうかな?あ、あははは…」 「…ほんと、変…」 笑って誤魔化す俺を、葵陽は不審者でも見るような目でじーっと見ていた。

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