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嘘つき_3
「上司に頼まれたんだ……」
「頼まれたぁ?押し付けられたの間違いだろ?」
「違っ……普段人には仕事をあまり頼まない人なんだ。今日はどうしても予定があるからって。入社からお世話になってるから断れなくて……」
「ふーん……で、俺との約束を忘れて引き受けたと?」
「そういう訳じゃ…………」
強く言いかけ、やめた。
約束を破ってしまったのは、紛れもない事実だ。
「全く……金崎は昔からお人好しだよな」
「……そんなことない」
「そんなことあるんです。で?」
「え?」
「どのぐらいで終わる?」
隣のデスクから椅子を引き寄せ、周藤は腰かけた。
まるで待っていると言うような口振りと態度だ。
「まさか終わるまで待つ気か?」
「悪い?」
「最低でも二時間は掛かるぞ?」
「別にいいよ。待ってる」
鞄を隣のデスクに置き体を伸ばす様子から、立ち上がろうという素振りは見えてこない。
「周藤、そこまでしなくてもまた別の機会に――」
「俺は今日、お前と呑みたいの。そう決めてんだよ。口より手動かして、早く終わらせようぜ。あ、出来ることあったら言って。俺これでも結構優秀だからさ」
ニヤリと笑う周藤に何を言っても無駄だろうと察する。
「自分で言うなよ」と言いつつ、周藤が優秀な事ぐらい分かってる。
「……なるべく早く終わらせる」
「金崎、格好いいー」
ヒュー、と下手くそな口笛が鳴った。
「ふ、ふふふ……何だ、今の口笛擬きは?」
「昔から苦手なんだよ、口笛」
「だったら無理に吹こうとするなよ」
「んー?だってそうしたら金崎笑ってくれるかなって思って。俺を笑った対価は、金崎の笑顔だな」
恥ずかしげもなく彼は言う。
「…………馬鹿なのか?」
「ひでぇなー……」
「そこの資料、取ってくれ」
「はいよー」
言った本人は全く恥ずかしがる様子がないのに、言われた僕の方が何倍も何倍も恥ずかしかった。
でもそれを知られるのも悔しいし、恥ずかしいしで僕は平然を装いながら作業に取り掛かった。
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