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嘘つき_6

わいわいと賑わう店内。 さすが金曜日だな……。 「二名様でしょうか?」 若い女性店員が愛想の良い笑顔で、店に入った僕達を迎えた。 僕よりも先に入店した周藤も負けないぐらいの愛想の良さで店員に応える。 「はい」 「お煙草お吸いになられますか?」 「いえ。禁煙席でお願いできますか?」 「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」 どうやら喫煙席は満席で、禁煙席には少し空きがあるようだ。 「こちらのお席はいかがでしょうか?」 「大丈夫です」 案内されたのは少し空間の区切られた四人掛けのゆったりとした席。 席につくと周藤がまずはビールを注文し、僕も同じものを頼んだ。 「雰囲気の良い店だな」 正直な感想を言うと、周藤もにこやかに頷く。 「だろう?こういう和風な感じ、金崎が好きそうだなって思ってさ。さて、何食べる?」 メニュー表を開くと和食を中心とした料理が見られた。 どれも美味しそうだ。 「俺、これがいいな」 周藤が指したのは定番だし巻き玉子。 「いいね。僕はこれ食べたい」 僕は隣のページの高野豆腐がメインとなっている煮物を指す。 「あとは周藤が決めてよ」 メニュー表を周藤の方へ向けると、ペラペラとページをめくり、それから呼び鈴を鳴らす。 すぐに店員がやって来て、周藤は淡々と注文していく。 かしこまりました、と店員が去っていき、程なくしてビールが運ばれてきた。 「お疲れ様」 と、周藤が差し出したビールジョッキに僕も同じものを重ねる。 「お疲れ」 軽く一口飲んだ僕とは対照的に、周藤は勢いよく飲んでいく。 ぷはーっと息をついたとき、既にグラスの半分を飲み干していた。 料理が運ばれてくるテンポも早く、テーブルの上には次々と皿が並べられていく。 「ん!これ旨い!」 周藤はだし巻き玉子に舌鼓を打つ。 「料理も美味しいし、接客もいいんだな」 「気に入った?」 にこにこと問われ素直に頷く。 「そっか。よかった」 嬉しそうに笑う周藤に、胸が鳴る。 いつも笑顔を絶やさない周藤だけれど、そう言うのとはちょっと違う。優しい、包み込むような……そんな笑顔。 こんなことぐらいで、そんな顔して笑わないでほしい……。 優しい笑顔は時に残酷なんだよ。お前は知らないだろうけど。 胸の苦しさを流そうと、ビールを一気に煽った。 「お、おい……無茶するなよ?金崎、酒弱かっただろ?」 「このぐらい平気。もう一杯頼む。お前は?」 「……じゃあ俺も」 心配そうな周藤を尻目に追加のビールを頼んだ。 だけど結局それもすぐに飲み干してしまい、また追加。 何度か止めようとしてくれた周藤を無視して、僕は胸の苦しさをビールの苦味に隠して気付かない振りをした。

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